愛を語る距離

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本価格:628(税込)

  • 本販売日:
    2007/06/25
    ISBN:
    978-4-8296-5479-8
書籍紹介

くれぐれも、むやみに触れないように

他人との接触が苦手なゲームクリエーターの七瀬は、大手玩具メーカー部長の高須に何故か気に入られてしまった。高須は高価なスーツを着こなすかなりの美形なのだが、他人にも男にも興味のない七瀬にはどうでもいいことだ。しかし、七瀬の創ったゲームを高須の会社で発売してもらうまでは、彼を邪険にできない。七瀬は高須の熱烈なアプローチに嫌々対応していたが、次第に彼相手になら苦手な接触時に感じる恐怖感が薄れていき――。
立ち読み
  なんだよと眉を寄せる七瀬に、手に持っていたマフラーを巻きつける。わずかに揺れた細い肩に苦笑しながら、なるべく肌に触れないように高須が手を動かしていると、
上目遣いに彼が言った。
「絞める気か」
「……は?」
  とんでもなく耳慣れない、かつ物騒な台詞が鼓膜を直撃したあと、大脳に送られてきたが、さすがに高性能を誇る高須の言語中枢も、ありえない状況にその解析を危うく放棄しかけた。
  たしか今、自分は大切だと想う相手が寒そうにしているのを見て、手ずからマフラーを巻いてあげていたはずだ。そして、この状況で返ってくる言葉の代表的なものといえば、『ありがとう』とか『あったかい』といった、ありふれた優しい言葉ではなかろうか。
『絞める気か?』って、ニワトリの屠殺じゃあるまいし、間違っても好意でマフラーを巻いてくれている相手に投げかけるような台詞ではないだろう。だいいち、実際に凶悪殺人犯を前にしてでも、普通はそんな台詞は言わないはずだ。
  本当に、些か心臓に悪いほど新鮮な反応を見せる七瀬である。いったい、どういう思考回路でそのような発言に至るのか、一度じっくり話し合いを持ってみたいと、高須が本気で思った瞬間だった。
「七瀬くん。普通は絞めないよ?」
  幼い子供相手に言い聞かせるような口調で言ったら、彼の目元が朱に染まっているの見つけた。それで、今の発言が羞恥と照れを隠すために発せられたものだと気づく。
  かなりわかりづらい、回りくどい表現だが可愛らしい。あまりの初々しさに、高須が瞳を伏せて唇を噛む細い身体を抱きしめたい衝動に駆られた。しかし、それは七瀬を怯えさせてしまうとわかっているから、肩を叩いて終わらせる。
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