薔薇の名前 III
薔薇の楔
後編
書籍紹介
彬様が真の姿になる
フィラードに監禁され苦しむ彬をさらにうちのめす菜津央の裏切り。瀬名と彬をひきさく真実とは? シリーズ、ますます快調!
立ち読み
「自分の妖力でやられる気分はどうだ?」
彬は、瀬名の顎を掴んで聞いた。どうやら彼は、先刻の情事で吸った瀬名の妖気を濃縮し、一気にぶつけてきたようだった。
「どういうふうに、殺してほしい?」
悪戯っぽく、彬が尋ねる。瀬名の手を取り、銀のナイフを瀬名の爪の先に突き付ける。ナイフが、じわりと爪と皮膚との間に沈んだ。しかし、瀬名は声一つあげなかった。
その血を、彬の舌が掬う。
「甘い…」
ぴちゃ、と喉を鳴らして、彬は血を飲んだ。それを皮切りに、瀬名の頬に、額に、唇に、愛しげに唇を落とす。汗に湿ったしなやかな黒髪を、指先で梳き頬を寄せる。
「今生でも、お前は美しいな」
「……」
正気の時の彬なら虫酸を走らせるようんさ睦言を、今の彼は平気で言う。狂気を発した瞳で、彬は訊く。
「その指で、その顔で、幾人を誑かし、貶めた?」
「お前だけだ」
彬は、瀬名の顎を掴んで聞いた。どうやら彼は、先刻の情事で吸った瀬名の妖気を濃縮し、一気にぶつけてきたようだった。
「どういうふうに、殺してほしい?」
悪戯っぽく、彬が尋ねる。瀬名の手を取り、銀のナイフを瀬名の爪の先に突き付ける。ナイフが、じわりと爪と皮膚との間に沈んだ。しかし、瀬名は声一つあげなかった。
その血を、彬の舌が掬う。
「甘い…」
ぴちゃ、と喉を鳴らして、彬は血を飲んだ。それを皮切りに、瀬名の頬に、額に、唇に、愛しげに唇を落とす。汗に湿ったしなやかな黒髪を、指先で梳き頬を寄せる。
「今生でも、お前は美しいな」
「……」
正気の時の彬なら虫酸を走らせるようんさ睦言を、今の彼は平気で言う。狂気を発した瞳で、彬は訊く。
「その指で、その顔で、幾人を誑かし、貶めた?」
「お前だけだ」
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