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真夜中クロニクル

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書籍紹介

必死で手を伸ばし合って、今に溺れた。

太陽の下に出られないニーナは、夜中の公園で七つ年下の陽光と出会った。どんなにそっけなくしても、醜い顔を見せてもずっとそばにいる陽光。その一途さに、ニーナの中にあった重くかたくななものが少しずつ溶かされていく。けれど、進む時間の中でふたりを取り巻く状況は変わる。苦しみ悩みながらも、唯一変わらない想いとは──。書き下ろし「NEW LIFE」収録、待望の新装版。

立ち読み

 長めの前髪からちらっとニーナの目が覗く。吸い込まれそうに深い黒。
 底がゆらゆら揺れていて、ずっと見ていたいと思う。
「昔からずっと、頭がどうにかなりそうなくらいニーナが好きだ。俺がニーナを好きみたいに、ニーナも俺を好きになってくれたら嬉しい。でもそうじゃなくてもいい。ただ俺の気持ちを否定だけはしないで。俺はニーナが好きで、好きで──」
 好きで、好きで、その先が出てこない。
 こんな気持ちを表す言葉は、とうてい自分の中にはない。
 だから額をくっつけた。触れ合った場所から熱を伝えたい。
 ぐらぐら揺れる胸も、振動になってニーナに伝わればいい。
 額をつけたままじっとしていると、ニーナが動いた。
 視線が絡んで、ふっと顔が近づいた。
 唇に柔らかいものが触れ、すぐにそれは離れていき、陽光は目を瞬かせた。
 キス──をされた。
「……なんで?」
 馬鹿みたいに問いかけた。
「わからない」
 ニーナは真顔で答えた。
「おまえに言われたことや、ミツさんたちに言われたことや、自分のことや、いろいろ考えて、考えすぎて、もう嫌になって、考えるのをやめたら……」
 ニーナは口元を手で隠した。自分のしたことが信じられないと言いたげに。
 考えるのをやめたら、キスをしていた。
 すごく抽象的で、言葉にできないニーナの気持ちが伝わってくる。
 きっと自分の気持ちも同じようにニーナに届いている。
 頭の中で嵐が起こっている。ごうごうと風が吹いて、小さくて頼りないものが無数に舞っている。まるで桜の花びらみたいで、怖いくらいに恋だと思った。
「俺からも、していい?」
 五秒ほど間を空けて、ニーナがうなずいた。
 ゆっくり顔を寄せていく。唇が触れ合って、でもお互い目は閉じなかった。
 ニーナは戸惑った顔をしている。なぜこんなことをしているんだろうという声が聞こえてきそうで、なんだかおかしく、緊張がゆるんで、もう少し深くくちづけた。
 唇は触れているのに、互いの身体の間には空間があった。
 この空間は邪魔だった。驚かさないよう、ゆっくり抱きしめた。
 ニーナの身体は本当に薄っぺらい。でも女の子のような柔らかい薄さじゃない。力を入れたら、しならずにぽきりと折れてしまいそうな潔さ。まさしく壊れ物だ。
 抱きしめて、延々とキスをした。鳥がビスケットを食べるみたいに、互いの唇を何度もついばんで、たまに深く合わせる。上がっていく体温に誘われて、Tシャツの背中から手を入れた。反射的に手首をつかまれる。小さな争いが生まれて、でも途中からじゃれあっているようになって、やがて手の先は肩胛骨に辿り着いた。
「脱がして、いい?」
 思いきって聞いてみた。少し間が空いて、ニーナが身体を離す。駄目か。欲張らなきゃよかったと後悔したとき、ニーナが自分からTシャツを脱いだ。小さな頭をすぽんと抜いて、裏返しになったTシャツを床に放り投げる。
「服くらい、自分で脱げる」
 真面目な顔で言われた。そりゃあそうだろう。服くらい自分で脱げる。でもこういう場面で服を脱ぐことの意味を、ニーナはわかっているんだろうか。
「本当にいいの?」
「いい」
「無理してない?」
「してる」
「だったら──」
「もうしゃべるな。俺にいろいろなことを考えさせないでくれ」
 ニーナは覚悟を決めたように服を脱いでいく。麻のパンツも下着もさっさと脱ぎ捨て、また陽光と向き合う。脱ぐ過程での色気は皆無だった。なのに初めて見るニーナの裸体に、胸が破裂しそうに騒がしい。目が泳いでまともに見られない。
「だ、駄目そうだったらすぐ言って。無理には絶対しないから」
 緊張で声がかすれた。ニーナがぎこちなくうなずく。
 甘い雰囲気よりも、緊張と不安で空気は張り詰めている。
 見つめ合い、ゆっくり顔を寄せてキスをした。そのまま押し倒そうとして、自分が服を着たままなことに気づいた。しながら脱ぐかと思ったがそれは難しそうで、ごめんと身体を離して大急ぎで服を脱いだ。段取りが悪い。あたふたしてしまう。
「ごめん、お待たせ」
 言ってから、デートの待ち合わせじゃないんだからと後悔した。焦りすぎて額に汗がにじむ。初体験後の友人の言葉を思い出した。「心臓バクバクで、なにしてんのか全然わからん。あっという間に終わった」自分もどうやらその口か。
 落ち着け。落ち着け。焦るな。
 自分に言い聞かせながらキスをして、今度こそ押し倒す。熱い。素肌同士を重ねたことは初めてで、人の皮膚がこんなに熱いなんて初めて知った。
「……っ」
 耳にくちづけると、ニーナが身をよじった。首を反らすから、逆にほっそりとした首筋のラインが強調されて目を奪われる。長い首筋に食むように唇を押し当てた。
 お互いうっすら汗をかいていて、触れた肌がぴたりとくっつく。
 離れるときは、ぴちっと艶めかしい音を立てる。
 ニーナの肌はどこもかしこもなめらかで、辿る指先に果てがない。
 初めての遊び場で駆け回る子供のように、あちこちに手を当てて確かめる。ここは? ここは? 愛しい鎖骨から、やがて薄っぺらい胸へと辿り着く。胸の左右、ささやかすぎる突起に触れてみた。さざなみみたいな震えが伝わる。
「ここ、嫌?」
 返事はない。ニーナはきつく眉間に皺を寄せ、歯を食いしばっている。
 顔を伏せ、胸の先にくちづけた。組み敷いている身体が大きく跳ねる。反対側を指でいじりながら、薄く色づいた場所全体を口に含んだ。
「ん……っ」
 頭上から洩れてくる息づかいに、少しずつ熱がこもり出す。徐々に芽吹き、最後にはつんと尖ってしまったそこを舌先でつついたり、転がしたり。
 二の腕をつかまれた。ニーナは身体は細いけれど、楽器を弾く手だけは大きい。小さな粒を吸い上げるたび、ぎゅっと強くつかまれる。自分の下で、泣きそうな顔で身をよじらせる様子に骨抜きにされた。
「ニーナ……、どうしよ、すごい、かわいい」 
 荒い息づかいでささやき、そろそろと下肢に手を伸ばした。
 密着したその場所で、さっきから違和感を訴えているニーナの性器に触れてみる。
 びくんと、今までで一番大きな振動が伝わってきた。
「やっ、さ、さ、さわ……っ」
 さわるなと言いたいのだろうか、ニーナがぶつ切れの言葉を紡ぐ。
「本当に嫌? だったらやめる」
 ニーナは泣きそうに顔を歪めた。唇を噛みしめたまま、押しのけようと突っ張っている腕から徐々に力が抜けていく。そして観念したみたいに目をつぶった。
「続けていい?」
 問うと、ニーナは無言でうなずく。すごく悲壮で、本当にしていいのか迷う。なんとか緊張をほぐしてあげたいけど、やり方がわからない。
 とりあえずもう一度胸の先にくちづける。舌先で遊ばせながら、懸命に手順を考えた。間違いなく、人生で一番の難事にぶつかっている気分だった。
 とにかく自分がどうこうよりも、ニーナに気持ちよくなってほしい。せめて怖がらせたくない。これを乗り越えられたら、たいがいのことには動じない気がしてきた。馬鹿なことで頭をグルグルさせながら、思いきって足の中心に触れた。

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