きみのはなし、
書籍紹介
好きだ、と何回も言おうとした。でもできなかった。
高校の同級生で、今は仕事仲間の飛馬と海東。飛馬は人付き合いが面倒で、一人でいるほうが楽だったが、海東だけは傍にいても苦にならない空気のような存在だった。そんな彼からたまにされるキス。海東の想いを知りつつも深くは考えず、いつか飽きるだろうと飛馬は好きにさせていた。ゆるゆると続いた関係だったが、海東が突然、結婚すると言い出したことで変化していき……。
立ち読み
「……海東。俺はどこにも行かない。おまえを捨てる気も、おまえから逃げる気もない。ずっとここにいる。だからおまえも、自分がどこに行くかは自分で決めろ」
「はい」
「ただ本音を言うなら、俺はおまえに傍にいてほしい。……おまえが誰を想おうとなにをしようと構わないよ。何ヶ月、何年、会えなくてもいい。千切れそうでも繋がりがあればいい。おまえとの関係が切れたら、俺はもう上手く生きられない」
「飛、馬……」
海東が目をぐっと瞑って涙をばらばらこぼしてから、俺の背中を掻き抱いた。
「ありがとう飛馬……嬉しいっ」
痛いよ、ばか。
「おまえはもっと俺を信じろ。おまえに騙されても俺は許してきたし、何度でも許すよ」
「……うん」
「それでも不安になったらすぐ俺のとこにこい。絶対に安心させてやるから。俺はおまえを切り離すことは考えない。おまえが哀しまないために、どうしたらいいのか考えるよ」
海東が俺を抱き竦めて泣く。くちを結んで身を委ねていると、やがて彼はすこしだけ上半身を離してくちづけてきた。俺の閉じた唇を静かに覆うだけのキス。
触れる以外はなにも強要してこない乾いた唇に、ふと涙の味がまじったのがわかった。その瞬間、俺は幾度となく繰り返したキスのなかで初めて、海東の唇をはんでこたえた。
海東はびくと戦慄いて唇を止め、ゆっくり離れて額を合わせたまま深呼吸する。でも言葉ではなにも訊かない。まるで〝落ち着こう、期待したらだめだ、だめだ〟と自制してるようで、その慎ましやかさがまた俺の心を揺さぶった。
「はい」
「ただ本音を言うなら、俺はおまえに傍にいてほしい。……おまえが誰を想おうとなにをしようと構わないよ。何ヶ月、何年、会えなくてもいい。千切れそうでも繋がりがあればいい。おまえとの関係が切れたら、俺はもう上手く生きられない」
「飛、馬……」
海東が目をぐっと瞑って涙をばらばらこぼしてから、俺の背中を掻き抱いた。
「ありがとう飛馬……嬉しいっ」
痛いよ、ばか。
「おまえはもっと俺を信じろ。おまえに騙されても俺は許してきたし、何度でも許すよ」
「……うん」
「それでも不安になったらすぐ俺のとこにこい。絶対に安心させてやるから。俺はおまえを切り離すことは考えない。おまえが哀しまないために、どうしたらいいのか考えるよ」
海東が俺を抱き竦めて泣く。くちを結んで身を委ねていると、やがて彼はすこしだけ上半身を離してくちづけてきた。俺の閉じた唇を静かに覆うだけのキス。
触れる以外はなにも強要してこない乾いた唇に、ふと涙の味がまじったのがわかった。その瞬間、俺は幾度となく繰り返したキスのなかで初めて、海東の唇をはんでこたえた。
海東はびくと戦慄いて唇を止め、ゆっくり離れて額を合わせたまま深呼吸する。でも言葉ではなにも訊かない。まるで〝落ち着こう、期待したらだめだ、だめだ〟と自制してるようで、その慎ましやかさがまた俺の心を揺さぶった。
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