夢から醒めた恋人は
書籍紹介
君はここで、俺に抱かれていたんだ?
金持ちの男性の『愛人』をしている笠原良は、現在の雇い主である鳴海佳哉との関係を終わらせようと考えていた。傲慢で、仕事にしか興味のない最低な男――そう思っていた矢先、鳴海が突然記憶を失ってしまう。一刻も早く記憶を取り戻すために協力を余儀なくされる良だが、別人のように優しい鳴海にひどく困惑する。やがて、記憶のない彼に好意を抱いている自分に気付くが……。
立ち読み
「お前の主義趣向など一切興味はない。それとも、俺に買ってくれというアピールか? 金を搾り取るだけじゃ飽き足らず、物品までせしめようという魂胆か」
思わず怒りがこみ上げたが、必死に気持ちを宥めて言葉を返す。
「……片づけ忘れただけだよ。今後気をつけます」
鳴海は俺を冷めた眼差しで見つめると、口を歪めてせせら笑う。
「どうだかな。愛人などと気取ってはいるが、お前のしている事は強請りと同じだ。性根の腐った卑しいヤツだよ、お前は」
――その卑しいヤツを囲っているのはあんただろう。
心の中で毒づきながら、鳴海の目を覗き込む。
「……抱くの、抱かないの?」
関係を終わらせたければ、すぐにでも俺を切り捨てればいいのだ。だが、こいつはそれをしようとしない。
理由は一つ。俺がこいつを強請っていると思いこんでいるからだ。いくら否定しても、こいつは俺の言葉を信じようとしない。だから今では、何も言わずにいた。
目の前の瞳に、険しさが増す。鳴海は眉間のしわを深くすると俺の顎を乱暴に掴んだ。
「お前にできる事など、他に何がある?」
「ないよ。……でも、あなたにはそれで充分だよね」
顎を掴まれたままベッドの端に腰を下ろすと、目の前の瞳がすっと細められた。
「もちろんだ。――早く俺をその気にさせろ」
酷薄そうな表情と口調が、俺の心をざらりと撫でる。
思わず怒りがこみ上げたが、必死に気持ちを宥めて言葉を返す。
「……片づけ忘れただけだよ。今後気をつけます」
鳴海は俺を冷めた眼差しで見つめると、口を歪めてせせら笑う。
「どうだかな。愛人などと気取ってはいるが、お前のしている事は強請りと同じだ。性根の腐った卑しいヤツだよ、お前は」
――その卑しいヤツを囲っているのはあんただろう。
心の中で毒づきながら、鳴海の目を覗き込む。
「……抱くの、抱かないの?」
関係を終わらせたければ、すぐにでも俺を切り捨てればいいのだ。だが、こいつはそれをしようとしない。
理由は一つ。俺がこいつを強請っていると思いこんでいるからだ。いくら否定しても、こいつは俺の言葉を信じようとしない。だから今では、何も言わずにいた。
目の前の瞳に、険しさが増す。鳴海は眉間のしわを深くすると俺の顎を乱暴に掴んだ。
「お前にできる事など、他に何がある?」
「ないよ。……でも、あなたにはそれで充分だよね」
顎を掴まれたままベッドの端に腰を下ろすと、目の前の瞳がすっと細められた。
「もちろんだ。――早く俺をその気にさせろ」
酷薄そうな表情と口調が、俺の心をざらりと撫でる。
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