猫のためいき。
書籍紹介
どうしよう。この人がとってもとっても好きだ。
雑貨店でアルバイトする坂上雅は、なにかと絡んでくるので嫌っていた店長の灰原志郎から突然「好きです」と告げられた。嫌悪されることを覚悟しながらも、恋情と欲を抑えられないと泣く志郎が切なかった。過去の恋にたくさん傷ついてきた志郎は格好いいのに泣き虫で、雅は彼をその孤独から守りたいと思い始める。心をほどきながら、ふたりは少しずつ想いを寄せていくが……。
立ち読み
「なんで……ノンケを好きになるのが、裏切りなんですか?」
「好きになるのはだいたい親しい人間で、私は相手がくれた信頼に対して汚い感情を返してきたんです。素直に拒絶する人もいましたが〝嫌いじゃないから友人のままでいよう〟と優しくふってくれた人とも、結局溝は消えませんし……自然消滅しますよね」
苦しげな表情をする灰原さんの下瞼から涙がこぼれて、透明な雫がきらきら瞬きながらテーブルにぽと、と落ちた。なんで恋愛感情が汚いの? と怒鳴りたくなった。灰原さんの涙が丸い水たまりになって、彼が慌てて笑顔を繕いつつ指先で拭うと余計に、汚くなんかない、人間が抱く感情の中で一番純粋で綺麗なものだろ! と引っぱたきたくなった。
でも灰原さんが受け止め、受け入れ、歯を食いしばって積み重ねてきた傷を知らない自分の主張など、軽率でしかないのは明白で、拳をぎりぎり握り締めるしかない。
なんだよ。サドで大木でしょうべん小僧以下で宇宙人なんだろ、泣くなよ。いまだ大学で孤立してる俺を癒してるのだって貴方なのに、自分ばかり責めて。ばか。ばかだ。
「心臓……痛いですか、灰原さん」
「痛いですよ」
指を拭いて腕を伸ばし、俺は彼の胸に手をあてた。掌に浸透するかたい感触と体温の奥に、氷のように脆く凍える心の存在を感じて撫でると、摩擦で僅かな温もりが灯る。
「雅くん、よして」
「……。左側、俺のだから」
ピザをぽいと離した灰原さんが一瞬で俺を掻き抱いた。雅、雅っ、と呼んで泣く。
灰原さんに抱き締められると布団にくるまっているみたいにあったかい。今灰原さんの哀しみは、少しぐらい砕け落ちて消えているのだろうか。俺にそんな力あるのかな。
「好きになるのはだいたい親しい人間で、私は相手がくれた信頼に対して汚い感情を返してきたんです。素直に拒絶する人もいましたが〝嫌いじゃないから友人のままでいよう〟と優しくふってくれた人とも、結局溝は消えませんし……自然消滅しますよね」
苦しげな表情をする灰原さんの下瞼から涙がこぼれて、透明な雫がきらきら瞬きながらテーブルにぽと、と落ちた。なんで恋愛感情が汚いの? と怒鳴りたくなった。灰原さんの涙が丸い水たまりになって、彼が慌てて笑顔を繕いつつ指先で拭うと余計に、汚くなんかない、人間が抱く感情の中で一番純粋で綺麗なものだろ! と引っぱたきたくなった。
でも灰原さんが受け止め、受け入れ、歯を食いしばって積み重ねてきた傷を知らない自分の主張など、軽率でしかないのは明白で、拳をぎりぎり握り締めるしかない。
なんだよ。サドで大木でしょうべん小僧以下で宇宙人なんだろ、泣くなよ。いまだ大学で孤立してる俺を癒してるのだって貴方なのに、自分ばかり責めて。ばか。ばかだ。
「心臓……痛いですか、灰原さん」
「痛いですよ」
指を拭いて腕を伸ばし、俺は彼の胸に手をあてた。掌に浸透するかたい感触と体温の奥に、氷のように脆く凍える心の存在を感じて撫でると、摩擦で僅かな温もりが灯る。
「雅くん、よして」
「……。左側、俺のだから」
ピザをぽいと離した灰原さんが一瞬で俺を掻き抱いた。雅、雅っ、と呼んで泣く。
灰原さんに抱き締められると布団にくるまっているみたいにあったかい。今灰原さんの哀しみは、少しぐらい砕け落ちて消えているのだろうか。俺にそんな力あるのかな。
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