凍える月影
書籍紹介
抱いてくださりませ、兄上──
縹国に使いとしてやってきた僧侶の月永は、世俗を離れた身でありながら、その美貌ゆえ国主・義康の寵愛を受けるようになる。だがそれこそが月永の謀略であった。月永は家族の仇を討つため、何も知らずに正道を歩む異母兄――義康を穢そうと身体を開いたのだ。義康を禁忌の関係に堕とし、国を滅するべく罠を仕掛けていく月永。だがそれは義康の中に眠る獣を目覚めさせてしまい…。
立ち読み
「……許せ、月永。そなたを、仏の下には返せない」
「あぁ……義康様。お側にいられるのでしたら、この身がどうなってもかまいません。御仏もわたくしを救ってはくださらなかった。仏に使える僧侶たちも、わたくしを絶望させただけだった。でも、あなた様は……」
義康を見上げる月永の瞳は、黒々として深かった。この瞳に、これまでどれだけの苦しみがのしかかっていたことだろう。どれだけの絶望を抱えていたことだろう。
だが、もうどんな苦しみも絶望も感じさせない。月永を離さない。
「月永……。生涯大切にする。わたしが愛しいと思う者は、そなた一人だ。そなただけを生涯愛しく思う」
「義康様……」
瞳を潤ませる月永に、義康は誓いを込めて口づけた。誰にも邪魔をさせない。月永は義康のものだった。
抱き竦められた月永の瞳が、暗く光って、閉じられた。
とうとう、義康に抱かれてしまった。
今、義康が抱いたのは僧侶の月永ではない。義康が抱いたのは、弟。
――泰恵尼。いいや、綾姫。おまえの息子は、実の弟を抱いた畜生に堕ちたぞ。
目を閉じた月永の唇の端が上がる。声に出さず、月永は笑った。
憎い女の大事な息子を、ついに穢してやった。地獄に引きずり込んでやった。
実の兄と狂おしいまでに抱き合い、心地よい疲れが全身に満ちていく。
畜生道に堕ちたのは、義康一人ではない。
弟と知らずに月永を抱いた義康より、兄と知った上で義康に抱かれた月永のほうが罪深かった。
そして、その兄に抱かれて、月永はかつてないほどに感じたのだ。それは、芝居ではなかった。
血が、月永を狂わせたのか。
――約束どおり、生涯離さない。
もう、二人は切っても切れない絆で結ばれてしまった。禁忌の快楽を貪ってしまった。
――兄上……共に地獄に堕ちましょうぞ。
義康をかき抱いた月永から、涙が一滴零れ落ちた。
悲しみとも、喜びともつかない涙だった。
「あぁ……義康様。お側にいられるのでしたら、この身がどうなってもかまいません。御仏もわたくしを救ってはくださらなかった。仏に使える僧侶たちも、わたくしを絶望させただけだった。でも、あなた様は……」
義康を見上げる月永の瞳は、黒々として深かった。この瞳に、これまでどれだけの苦しみがのしかかっていたことだろう。どれだけの絶望を抱えていたことだろう。
だが、もうどんな苦しみも絶望も感じさせない。月永を離さない。
「月永……。生涯大切にする。わたしが愛しいと思う者は、そなた一人だ。そなただけを生涯愛しく思う」
「義康様……」
瞳を潤ませる月永に、義康は誓いを込めて口づけた。誰にも邪魔をさせない。月永は義康のものだった。
抱き竦められた月永の瞳が、暗く光って、閉じられた。
とうとう、義康に抱かれてしまった。
今、義康が抱いたのは僧侶の月永ではない。義康が抱いたのは、弟。
――泰恵尼。いいや、綾姫。おまえの息子は、実の弟を抱いた畜生に堕ちたぞ。
目を閉じた月永の唇の端が上がる。声に出さず、月永は笑った。
憎い女の大事な息子を、ついに穢してやった。地獄に引きずり込んでやった。
実の兄と狂おしいまでに抱き合い、心地よい疲れが全身に満ちていく。
畜生道に堕ちたのは、義康一人ではない。
弟と知らずに月永を抱いた義康より、兄と知った上で義康に抱かれた月永のほうが罪深かった。
そして、その兄に抱かれて、月永はかつてないほどに感じたのだ。それは、芝居ではなかった。
血が、月永を狂わせたのか。
――約束どおり、生涯離さない。
もう、二人は切っても切れない絆で結ばれてしまった。禁忌の快楽を貪ってしまった。
――兄上……共に地獄に堕ちましょうぞ。
義康をかき抱いた月永から、涙が一滴零れ落ちた。
悲しみとも、喜びともつかない涙だった。
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