指先の愛撫
書籍紹介
泣いてねだるまで この夜は、終わらない
「陶器が直るまで一緒にここにいてもらうだけだ。そのあいだは夜の相手もしてもらう」陶磁器の修復を手がける美樹は、不動産会社を営む大道寺から、人違いで、顧客に身体も売っていると誤解されてしまう。大道寺の家に強引に連れてこられ、美樹は同居しながら仕事を請けることに。セックスを無理強いされても、一目見たときから大道寺に惹かれていたせいで真実を告白できず…。美樹を見誤ったままの大道寺から夜毎抱かれていたが!?
立ち読み
美樹には、心を奪われると、つい動きを止めてじっとその対象物を凝視しつづけてしまう癖がある。それを美樹の友人知人たちに、美樹の病気がはじまった、と揶揄されることが多い。
男は射抜くような強い視線で美樹を見つめ、口角を上げて笑った。
皮肉っぽく、嘲笑するような笑みが、美樹を現実に引き戻す。
たしかにこれは一種の病気だなと、我に返った美樹はさすがに苦笑してしまった。いまだかつて間を対象にして、こんなふうに動きを止めて凝視してしまったのは、はじめてだ。芸術作品や骨董なら見とれるのもありだろうが、このシチュエーションで同性に見とれていては、凝視された側は何事かと不審を抱いて当然だろう。
「私はエレベーター係ではないのだが。君はエレベーターに乗るのつもりなのか? それとも違うのかな?」
しかも男はそう美樹に語りかけてきた。どうやら動きを止めてしまった美樹を待って、エレベーターのドアの開閉ボタンをずっと押してくれていたらしい。
「す……すみません。乗ります」
慌ててエレベーターに駆け込むと、男は軽く肩をすくめた。美樹と入れ替わるように、男がエレベーターから降りる。
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