あなたが食べるその日まで

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本価格:682(税込)

  • 本販売日:
    2018/01/12
    電子書籍販売日:
    2018/02/23
    ISBN:
    978-4-8296-2642-9
書籍紹介

先輩がおいしそうだから、つい。

幌置が働くフードコンサルティング会社に、三股で刃傷沙汰になったという祥崎が雇われる。彼は人と一緒でないと食事ができないらしい。最初は反感を持っていたものの、かつてパティシエを志望していた幌置は、自分が作った料理を幸せそうな表情で食べる祥崎にほだされかける。けれど──「先輩の、おいしいです」お礼にセックスすると言って強引な愛撫を仕掛けられて……。

立ち読み

「……あ、……っあ、……っ、ふ、……ん、ぁ、……っ」
 出口を求めて腰がくねる。みっちりと体内に居座る祥崎の重さと熱がもどかしい。抜いてほしい。なのに引かれて腹の中に空洞ができたように感じると、そこをもっと強く埋めてほしいようにも思えて、下半身がばらばらになってしまいそうだった。
 ちゅうっ、とキスした祥崎が、熱っぽく見下ろしてくる。
「達きたくなった? ものほしそうな顔もいいですけど──どうせ、その顔はほかの人も知ってますよね。女の人とはしたことあるみたいだし」
「んっ……な、に、……言って、あっ、ぁあっ、や、深い、ぁ、く……っ」
「いらいらするなあ。なんでだろ」
 いくらか乱暴に責め立てて、祥崎は抱きしめてくる。おかしいな、と不思議そうに呟く彼がなにを考えているのか、幌置にはわからなかった。ただでさえ、うまく思考がまとまらない。膨れ上がった射精欲で混乱したまま、「祥崎?」と呼ぶと、ぐっと身体を押さえつけられた。
 なんなんだ、と思ったのもつかのま、首筋にすり寄るように顔を埋められ、続けて、硬いものが皮膚に触れた。
「なん、だ……あ、ぁ、あ!?」
 ずぶり、となにかが刺さったような気がした。鋭い、切り裂かれるような痛みが首のつけ根から走り、一気に肌が粟立つ。
 耳元で、うっとりしたようなため息が聞こえた。
「おいしい」
「……っ、おま……、なに、して……っ」
「かじっちゃった」
 悪気のない声で言って、祥崎は舌を這わせてくる。びりびりと痛む噛み傷を丹念に探られ、寒気と痺れを混ぜたような、あやうい感覚に息を呑む。祥崎はわずかに顎をずらし、そこにもゆっくり歯を立てた。
「おいしいし、痕がつくの、すごくいいな」
「っ、噛むな……っ、あ、……あ、ぁあ!」
 皮膚が弾けるような鮮烈な痛みだった。硬い歯が抜けていっても、食い込んだ場所は燃え立つように熱い。一度全身に広がった痛みが徐々に収斂していくのにあわせて、どくん、どくん、と心臓が脈打つのが感じられた。胸だけでなく、腹の奥まで──祥崎を飲み込んだ場所まで、拍動にあわせて疼く。
「……う、あ、……、あ、……っ」
 思わず視線を向けた先、幌置の性器は萎えることもなく反り返っていた。限界を迎えて張りきったそれは見たこともない角度をつけて揺れていて、先端のスリットからは雫が尾を引いていた。
 首筋がじくじくと痛むのに。
 尻の穴なんかに突っ込まれて、揺さぶられて苦しいのに。
 ぐらっ、と意識がぶれて、幌置はとうとう吐き出した。
「……も、いや、だ……っ、も、……でき、ない……っ」
 みっともないとか、矜持だとか、いいぞと許したのは自分だとか、そういう諸々がどうでもよくなるくらい、怖かった。自分に、これほどの欲が眠っていたことが。
「も、終わり、に……っ、ぅ、……ッ」
 ぐん、と内壁を押し上げられ、幌置は震えて声を漏らした。じわっ、と染み出す感触があって、性器の内側が疼いた。
「いい顔」
 切羽詰まった幌置とは逆に、祥崎は今や陶然とした表情だった。ため息までついて幌置の頬に触れ、濡れた眦を拭う。
「いいなあ。たまんない」
「──っ、やめ、ろ、よ……おまえ、……っふ、う、ン……っ」
 怖いよ、と言おうとした唇をふさがれて、ゆっくり歯列を撫でられた。縮こまった舌をほぐすようにかき回し、感じやすい上顎を舐めては角度を変えて口づける。ついばむように何度もキスし、祥崎は嬉しそうに訊いた。
「怖かったですか?」
「……っ」
「気持ちよくしてあげるって言ったのに、怖い思いさせてごめんなさい。先輩おいしそうだから、つい」
「……つい、じゃねえよ……っ、ん、は、ぁっ、……あっ」
 捏ね回すような動きで奥を突き上げられて、幌置は逃げようもなくその責めを受け入れた。ぬぐ……っ、とねばつく粘膜を巻き込むようにして、祥崎の性器が動く。
「もう出していいですよ。さっき、達きそうになってましたもんね」
「や……っ、抜、抜けって、……ん、ぁあっ……っぅ、……く、……っ」
「我慢しないで」
 祥崎が指を絡めてくる。くびれに重点的に狙いを定め、中を穿つ動きにあわせてしごかれて、腰がだるいように重たくなった。
 さっきよりもひときわ、体内の祥崎が大きく感じるのは気のせいだろうか。硬くて重たいそれに内側から追い上げられる感覚が、直接幹をしごかれる刺激よりも強烈で、幌置はもう一度懇願した。
「なかっ……なか、や、だからっ……抜……っ、抜け……っ」
「このままでも達けますよ、大丈夫。俺もすぐ終わりますから」
「だ、いじょ……ぶじゃな、っぁ、ううっ……あっ……や、め、……ッ」
「出そうでしょう? フェラもしばらくしてあげてなかったから、濃いの出して」
「や、……ぁっ、……く、……は、……ん、あっ、……ァ、あ、っ」
 くびれをいじる動きと、ピストンが少しずつ速くなる。じゅっ、じゅっ、と響く水音が穴からなのか竿からなのかももうよくわからなかった。ただどちらもぐっしょりと濡れ、腫れぼったく、今にも弾け飛びそうだった。
 いやだ、と幌置は言おうとした。それを阻止するかのように、ひときわ強く祥崎が腰を押しつけてきて、がくん、と顎が上がる。丸く体内をくり抜かれたような衝撃に呆然とし、無理だ、と思った直後には、崩壊がやってきた。
「ぁ、……あ、……あ、ぁ────っ、……!」
 尾を引く自分の声が遠くかすみ、思考が真っ白になる。
 激しい放出の感覚に全身がわなないて、幾度も精液が噴き出してしまう。少量ずつ溢れたそれはしまいにはぷくりと滲んで性器を伝い、そうなってなお、快感の波は引かなかった。ずっぽりと後ろにはまった祥崎の分身がまだ動いていて、突かれるとぴんと神経を爪弾かれるような快感が走る。
「あ……っ、……あぁ、……おわら、な……あ、ぁ……っ」
 長い、長い責め苦。駄目だ壊れてしまう、と思いながら抗えない快楽に身をよじると、どこか遠く、離れたところから祥崎の声が聞こえた気がした。低い、押し殺したような息遣い。
「……っん、ぁ、……あ、……は、……っ」
 幌置も喘ぎ、指先まで震えて、消えない快感に飲み込まれる。
 祥崎の切っ先を押しつけられた一番奥が、じゅくじゅくに熟れて溶けているみたいだった。
「やば……ゴム外れそう」
 荒くなった息を弾ませながら祥崎が呟いて、慎重に出ていく。喪失感にきゅううっと襞が窄まり、幌置はゆるく腰を振った。終わったと頭では理解しているのに、身体が言うことを聞かない。
 後始末をしているらしい祥崎を、ぼんやりと見る。欲望を成し遂げて放心したような表情は、幌置のほうを見ると複雑に歪んだ。笑おうとして失敗したような、後悔しているような顔だ。
 その顔を見ると少し冷静になれて、幌置はだるい腕を上げて顔を拭った。
「そんな顔するなよ。つまんなかったのはわかるけど」
「──つまんなかったわけじゃないです」
 ベッドを軋ませて、祥崎は上のほうに移動してきた。幌置の顔の脇に手をついて、キスしたそうに唇を寄せ、諦めたように肩に額を押しつける。
「すみません。──いつもは、こんなふうにはしないんですけど」
「噛んだりとか?」
「噛んだり、怖がらせたりしたらお礼にならないから。ちゃんとご奉仕するつもりで、とことん気持ちよくしてあげるはずだったのに」
 ごめんなさい、と声がくぐもって、まったくだよ、とため息をつきたくなる。全身痛いしだるい。醜態を思い返すと顔から火が出そうなほど恥ずかしいし、暴力的なまでの快楽を思い出すとぞっとした。肉体的には、たしかに快感だったのだろう。でもそれは気持ちいいのとはまったく別物だった。最悪なセックスだったが、半分は自分のせいだとも思うから、祥崎を責める気にはなれない。
 たぶん、混乱したのだろう、と幌置は思った。したくもないセックスで緊張を強いられたのと、認めたくはないが怯えと、物理的な快楽と、噛まれるというハプニングがごっちゃになって、それで萎えなかっただけだ。性欲が強いとか、おかしな性癖があるとかではない、はずだ。現に、噛まれた首と肩はまだ痛むが、それで反応はしない。
「俺も二度とごめんだけど」
 掠れてしまった声で、幌置は言った。
「おまえもこれで目が覚めただろ。今まではともかく、俺には飯の礼にセックスしたっていいことはひとつもない」
 祥崎は伏せたまま動かない。落ち込んでるのか、と幌置は眉を寄せ、仕方なく手を頭にのせてやる。少し湿ったように感じられる髪の毛をとおして、地肌はあたたかかった。
「無駄なことはもういいから──今月いっぱいは、飯、ちゃんと食わせてやるからさ。来月になったら、誰か好きになれる人探せよ。……約束、できるよな?」

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