僕だけの騎士
書籍紹介
こう見えてもテクニシャンなんだぜ?
「人は見かけじゃない」というけど、この男はひどすぎる! 無実の罪で逮捕されてしまった僕には、弁護士の北澤だけが唯一の味方なのに、彼はだらしない身なりで傍若無人──こんな男が頼りになるのか? しかし公判での北澤は別人のように格好よく、キレる敏腕弁護士になっていた。そのギャップに、僕はドキドキが止まらない。「あんたを絶対守ってやるよ」ぶっきらぼうだけど優しい彼に、思わずときめいてしまって…。ナイトは、2つの顔を持つぼさぼさ頭の色男
立ち読み
本当に、このままここにいてしまおうか――おさまりかけた嗚咽の下、頭に浮かんだその考えに誘われるように僕は北澤の胸から顔を上げ、泣きすぎてぼんやりした頭で室内をぐるりと見回した。どんなに汚い部屋であっても、寝るのがこのソファでも、口が悪い上に、法廷と普段の生活に驚くほどのギャップがあっても、ここには僕を受け止め、優しく癒してくれる何かがある――そんな気がする。
「…………あの……」
涙に掠れた声でそう呼びかけた僕の顔を、北澤の無精髭の浮いた小汚い顔が見下ろしていた。
「ん?」
「…………」
優しげに目を細めて微笑むその顔に、胸の鼓動が速くなる。泣きすぎて情緒不安定にでもなってしまったのか、と頬の赤らみを悟られまいとまた俯いてしまいながら、僕は彼の胸に両手をつき、身体を離して向かい合った。
「お世話になります」
小さな声でそう言って頭を下げた僕に、
「そうこなきゃな」
と北澤は笑うと、またくしゃ、と僕の髪を掻きまぜるように指を絡め、そのまま僕の頭を自分の胸へと抱き寄せた。またも早鐘のように打ちはじめた胸の鼓動を持て余しながら僕も目を閉じ、彼の身体から立ち昇る清潔な石鹸の香りを胸一杯に吸い込んでみる。ここにいるのは誰よりも頼りになる僕の弁護人――僕を窮地から救いあげてくれただけでなく、傷ついた心までをも癒してくれる、優しい声と細く長い指を持つ、誰より信頼できる、僕の――。
「…………あの……」
涙に掠れた声でそう呼びかけた僕の顔を、北澤の無精髭の浮いた小汚い顔が見下ろしていた。
「ん?」
「…………」
優しげに目を細めて微笑むその顔に、胸の鼓動が速くなる。泣きすぎて情緒不安定にでもなってしまったのか、と頬の赤らみを悟られまいとまた俯いてしまいながら、僕は彼の胸に両手をつき、身体を離して向かい合った。
「お世話になります」
小さな声でそう言って頭を下げた僕に、
「そうこなきゃな」
と北澤は笑うと、またくしゃ、と僕の髪を掻きまぜるように指を絡め、そのまま僕の頭を自分の胸へと抱き寄せた。またも早鐘のように打ちはじめた胸の鼓動を持て余しながら僕も目を閉じ、彼の身体から立ち昇る清潔な石鹸の香りを胸一杯に吸い込んでみる。ここにいるのは誰よりも頼りになる僕の弁護人――僕を窮地から救いあげてくれただけでなく、傷ついた心までをも癒してくれる、優しい声と細く長い指を持つ、誰より信頼できる、僕の――。
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