働くおにいさん日誌②
書籍紹介
添い寝は……その、嫌なわけではないのが困る!(by甫)
フラワーショップの店主・九条に「甘やかす権利」を存分に履行されている医師の甫。朝から晩まで好きだ好きだと言いまくられ、まだまだ不器用だけれども、少しだけ甘えることに慣れてきた。甫の部下である深谷と暮らす弟の遥も、よく遊びに来て……。賑やかながらも穏やかで甘い日常、ちょっと覗いてみませんか? サイト連載ブログを改編+書き下ろし短編も収録、待望の第二弾!
立ち読み
「もしかして、全然眠れなかったの?」
知彦が問いかけると、遥は叱られ坊主のような顔でこっくり頷く。
「駄目じゃないか。ちゃんと寝ないと、せっかくパン生地が膨らんでくれても、遥君がベストの力を出せないよ?」
「わかってるけど!」
決まり悪そうな膨れっ面が可愛くて、知彦は苦笑いで、遥の縺れた柔らかな髪をクシャクシャと撫でた。
「あと二時間足らずだけど、九十分睡眠って悪くないらしいから、頑張って一寝入りしようよ。な?」
しかし遥は、餌を食べ過ぎたハムスターのような顔のまま、上目遣いで深谷を見る。
「そんなこと言われたって、プレッシャーで眠れないよ!」
「もう。遥君は、いつも剛胆なくせに、変なところで繊細だからなあ。いいから布団に戻ろう。ほら」
「うー。戻っても眠れなーい!」
「大丈夫。ほら、行くよ」
「うう」
まだグズグズ言う遥の手を取り、優しく引っ張りながら、知彦は寝室へと戻った。遥はいかにもトボトボとついてくる。
「横になって目をつぶるだけでも違うんだから。布団に入りなよ」
「…………」
遥はやはり難しい顔で、なおもしばらく突っ立っていたが、やがて自分の枕をヒョイと拾い上げると、知彦の布団にもぞもぞと潜り込んだ。早く来いと言いたげに、知彦の枕をバシバシと叩く。
唖然として見守っていた知彦の苦笑いが、ますます深くなった。
「もう。まあいいや、遥君が寝てくれるなら」
そう言って、知彦は自分も遥の隣に身を横たえた。仰向けに寝ころんだ知彦のトレーナーの胸に、遥は半ば乗り上げるように身を寄せてくる。
そのほっそりした体と自分に布団を着せかけ、知彦は片腕を遥の背中に回した。
おすすめの関連本・電子書籍
- プラチナ文庫
- 書籍詳細