遥
2019/09/02
調理実習で作ったんだって。調理実習って、お菓子も作るんだな。
形はちょっと不細工だったけど、凄く旨くてビックリした。手作りのカスタードクリームって、いいもんだな~。
帰ってきた深谷さんにその話をしたら、「へえ」って言いつつ、何かちょっと不機嫌……?
「女の子にお菓子をもらうなんて、僕は経験したことがないよ」ってムスッとした顔で言われちゃった。あちゃー。
えっと……俺は女の子じゃないけど、作ってあげようかな、お菓子。
シュークリームはちょっとハードルが高いから……こう、蒸しパン、とか。
九条
2019/09/02
いったいどうやって上がってきたのやら。先生は、土の中に卵が入っていたんじゃないかと推理しておられて、確かにその可能性はありそうですね。
今朝、今日のお稽古の後、どこで夕食を食べましょうか、と先生に相談したら、「秋らしいものがいいな」と一言。
そうなると、やはり和食かな……と考えていたら、さっき、先生からメールが。
何故か、猛烈に麻婆豆腐が召し上がりたいそうです。……中華、ですね。
そして、秋とはいったい……。
知彦
2019/09/02
どうしたのって訊ねたら、「外」って一言。
何かいるのかとギョッとしたけど、すぐにわかった。虫の声だ。
一匹一匹は澄んだ音を立ててるんだけど、集まるとうるさいくらいで、ちょっと情緒からは遠ざかってしまっているのが面白い。
だけど、僕たちが暮らしている小さな家の狭い庭に、そうやって色んな生き物が暮らしているんだな……って実感するのは、何だか新鮮な経験だった。
二人暮らしのつもりだったけど、実はけっこう大家族だね。
甫
2019/09/02
驚いて声が出て、九条を起こしてしまったのだが、なんでも、俺がすり寄ってしまったらしい。
すまないと謝って離れようとしたのに、九条の腕が少しも緩まない。
「こうしていると温かいじゃないですか」と言われて、確かにそうだ……と思っているうちに、また寝てしまっていた。
結局、朝までその状態だったようで、肩と背中が妙に凝っている。
九条は大丈夫だろうか。
心配しつつも、やや不自然な体勢だったにもかかわらず、昨夜はやけにぐっすり眠れたような気がして気恥ずかしい。
遥
2019/09/02
何だかこれを貼ってると、いよいよ夏が終わったーって感じがして、ちょっと寂しい。
だけど、10月からは揚げパンが始まるから、それはそれで楽しみ!
今年は生地にコロコロに切ったサツマイモを混ぜた揚げパンを作ろうと思ってるんだ。
新しい商品を出すときって、いつもドキドキして楽しみ!
だけど、毎年同じものがあるってのも、それはそれでいいもんだよね。
うまくバランスが取れたらいいんだけど。
いつまでたっても試行錯誤だなーって思うけど、それって、どんな仕事でもきっと一緒だよね!
九条
2019/09/02
といっても、特に買い物に出掛けたりはしなかったので、家にある小麦粉とバターと卵、あとは砂糖だけという、すこぶるベーシックなハードクッキーです。
しかも生地はフードプロセッサーで一瞬にして出来上がってしまったので、あとは伸ばして型抜きをするだけです。
先生も「……今はこんなに簡単に作れるのか」と驚いておられました。
便利ですよね、フードプロセッサー。パン生地だって作れちゃうんですよ……などと言いつつ、ワイングラスで生地を丸く抜き、牛乳を塗って、オーブンでこんがり焼きました。
火が通るにつれ、甘くて香ばしい香りがオーブンから漂ってくるのに、何ともいえない幸福感を覚えました。
焼きたてすぐは何だか変に柔らかい感じがしますが、少し冷ますと、とてもさっくりして美味しいクッキーに仕上がっていました。
子供時代の先生のクッキーの味を知るよしはありませんが、今日、二人で焼いたクッキーは、確かに幸せの味がしました。
甫
2019/09/02
後にも先にも、クッキーなど作ったのはあのときだけだぞ。
ちょうど、その数日前の新聞にレシピと作り方が載っていたから、引っ張り出してきて悪戦苦闘したんだ。
小麦粉と卵はともかく、バターを勝手にたくさん使うんじゃないと、あとで母に叱られたな。
しかし、自分で焼いたクッキーは、手前味噌ながら確かに素朴で旨かった。
大人になった今なら、もっと上手に作れるのだろうか。
一度、試してみたくはなる……その、今度は九条と一緒に。
遥
2019/09/02
料理はわりに豪快にやってた気がする。
あ、でも、お菓子はちゃんと量らないと駄目なんだって言ってたっけな。
俺がおやつにクッキー食いたい!って駄々こねたとき、いっぺんだけ焼いてくれたんだ。
あんときは、1gの誤差も許されない!ってキリリとしてた。
生地の厚みも定規ではかってたし、型なんかないから、コップで一枚ずつ丁寧に抜いてさ。
おかげですげえ時間がかかって、食べられたのは夕飯の後だったのを覚えてる。
でもあのクッキー、凄く旨かったな~。
知彦
2019/09/02
これは勝手な印象だけど、大野木先生の手料理って、計量がとてもきっちりしている感じがする……と言ったら、遥君が不思議そうな顔で、「兄ちゃん、そのへんはけっこう適当だよ? 少なくとも、俺がちっちゃい頃に作ってくれた奴は全部目分量だった」って言うのでビックリ。
そ、そうなんだ……。
意外な一面に、何だかショックを受けている僕がいる。いや、全然いいんだけど……いやでも……何だかちょっとイメージと違う……!
九条
2019/09/02
昨夜、先生が作ってくださったあさりのトマトパスタ、とても美味しかったですよ。
先生は麺が柔らかくなってしまったことを気にしておられましたが、スープが浸みて、かえってよかったと思います。
何より、先生の手料理だというのが嬉しくて。食べるのが勿体なかったです。
パスタでさえなければ、三日くらいただ眺めて過ごしたいくらいでした。
今夜はケーキとプレゼントをありがとうございます。
僕がずっとほしくて、でも値段が高くて二の足を踏んでいたフランスの庭園の写真集、お話ししたことを覚えていてくださったんですね。とても嬉しくて、今も先生のお帰りを待ちながら、大事にページをめくっています。
甫
2019/09/02
ならばと、一日早いが、九条の誕生日祝いをすべく、俺も出掛けることにした。
簡単な料理を作るべく食材を買いそろえ、少し悩んだが、ケーキは当日にとっておくことにして、秋らしい生菓子を買って帰った。
作ったのは、俺が中学生の調理実習で習った料理だ。何ともつましい祝いの膳だったが、帰ってきた九条は、とても喜んで食べてくれた。
頑張ってよかった……が、散らかったキッチンの掃除を手伝わせてしまった。
最後はしまらなかった……。来年はもっと手際よくやれるよう、一年計画で頑張ろうと思う。
遥
2019/09/02
昼過ぎにうちに来てもらって、俺の焼いた食パンをスライスして、サンドイッチパーティをした。
色んな具材を好きに挟み放題で、楽しかったな~。
俺のお気に入りは、テリチキと卵とりんご! 以外と合う!
ランチの後、四人でボルダリングに行った。
俺と深谷さんは時々行くけど、兄ちゃんと九条さんは初心者だから、新鮮だったみたい。
つか、兄ちゃんが登るとき、九条さんがいつ落ちてきても受け止められるようにって、めっちゃ気合い入れて見守ってるのが凄くおかしかった。
九条さんに楽しい一日でしたって言ってもらえて、深谷さんとガッツポーズしたよ!
当日も、平日だけど、兄ちゃんと楽しく過ごしてね!
甫
2019/09/02
月の表面のクレーターがはっきり見えて、子供ながらに宇宙に思いを馳せ、遥と大興奮したものだ。
今の天体望遠鏡なら、もっとよく見えるんだろうな。
見てみたい……と思ったが、この家は病院の前にあるから、夜でも外灯の光でそれなりに明るい。あるいは、あまり天体観測には向いていない環境かもしれないな。
今度、二人でプラネタリウムでも見に行くか。
最近のプラネタリウムは、俺たちの子供の頃のものとは桁違いに美しいそうだから。
……ただ、うとうとしていると係員に起こされる物騒なプラネタリウムもあるそうだが。
そこまで行くと、学校のようだな。
九条
2019/09/02
せっかくですので、今週のお稽古帰りデートは和食にしました。
期待どおり、コースの中で出される料理のいくつか、特に八寸はお月見をイメージした盛り付けと料理で、とても素敵でした。
まだ開いてないススキの小さな穂をあしらいに使ったり、月のイメージで卵の黄身を使ったり。家ではとても真似できませんが、季節感を料理に盛り込む参考になりました。
帰りの名月には残念ながらうっすら雲がかかっていましたが、それも秋らしい風情がありましたし、月明かりは十分に明るかったです。
帰宅してからも屋上に出て、買ってあった月見団子とほうじ茶でささやかなお月見の宴延長戦を。素敵な夜となりました。
先生の美しさは月の光の下では格別だ……と思っていたら、先生のほうは僕に月が似合うと思ってくださっていたようで、つまり僕たちは二人とも月と相性がいいんでしょうか。
知彦
2019/09/02
僕のかごを見るなり、「あら、カレーかシチュー?」って訊かれてビックリ。
そうか、品物を見れば主婦にはたちまち献立がわかっちゃうよね、カレーとシチューって。
大当たりで、今夜は手早くカレー。
「隠し味にカルピス入れると、子供も喜ぶ味になりますよ」ってアドバイスをもらったけど、うちには子供がいないからな~。
あっ、でも遥君が気に入りそうな味ではある。子供じゃないけど。
ないけど……買って帰ろうかな、カルピス。普通に飲んでも美味しいしね。
遥
2019/09/02
ちょっとくらい外しても、プレゼントなんだから怒られないよ! だいじょぶ。
俺も、深谷さんに何かプレゼントするときけっこう悩むけど、最近は、二人で遊べるものを選ぶことが多いよ。ボードゲームとか。
そしたらちょっと外したな、と思っても、一緒に遊んで楽しめるからいいやって思う。
だいたいさあ、自分でも、「今、何がほしい?」って訊かれたら咄嗟に何も出てこないもん。
まして人がほしいものなんて、わかるわけないじゃん。気持ちだよ、気持ち!
甫
2019/09/02
俺の悪い癖だ。深谷に相談してみようかと思ったが、どう考えても、九条とは趣味や好みが違いそうだ。やめておいた。
かわりに、図書室で学生時代から尊敬している大先輩のドクターに偶然お会いしたので、贈り物の極意を訊ねてみた。
「相手の相手の好みを踏まえつつも、自分では買わないようなものを選ぶのが、驚かせつつ喜ばせるコツかもしれんな」と、実に難しいアドバイスをいただいた。
だが……なるほど、俺が選んだものも、そういう品かもしれない。少し安心した。
九条
2019/09/02
勿論、親しき仲にも礼儀あり、ひとつ屋根の下で暮らす間柄でも、ひとりになりたいときもおありでしょうし、何もかもを共有すべきだとは思っていません。
しかし、さすがにあの拒絶は少し寂しい……と、しょんぼりしながら庭仕事をしていたら、先生が紙袋を下げてお帰りに。
お迎えに出たら、何も言わないうちに「さっきはすまなかった」と言われてしまいました。
なんでも、僕の誕生日プレゼントを買いに出掛けてくださったそうなのです。
ああ、なるほど。それで、僕がご一緒してはいけなかったんですね。
当日まで、プレゼントが何かを報せないために。
しょんぼりしていた気持ちが、一気にバラ色になりました。
先生は本当に……可愛くて罪作りな方です。
遥
2019/09/02
もんじゃ焼き食べて、カラオケ行って、立ち飲みのいい感じのバルで二杯ずつ飲んで帰ってきた。
深谷さんは「たまには大人っぽいデートとかしてみる?」って言ってくれたけど、俺、そういうのじゃないほうがいい。だって、キンチョーするもん。
そりゃドレスアップした深谷さんにもドキドキするけどさ、俺はそれよか、滅茶苦茶手際よくもんじゃを焼いてくれる深谷さんの腕前とか、そのときの二の腕の筋肉とかに惚れ直したよね~。
知彦
2019/09/02
「お忙しいですね」ってなにげなく声を掛けたら、突然顔を赤くして「あ、いや」と慌て始めたので何かと思ったら、どうやらネットで飲食店を検索中だったみたいだ。
なるほど、今日は木曜日か。お花のお稽古帰りの九条さんとデートするための店を探しておられたんだな。
論文検索をしているときと同じ、凄く真剣な面持ちだった。
大野木先生の、九条さんを新しいお店に連れていって喜ばせたい気持ちが伝わってきて、何だか僕も幸せな気分になった。
僕も久しぶりに、遥君をデートに誘おうかな。同じ家に住んでいるとそういう気持ちを忘れがちだけど、大事に思う気持ちは行動で示さなきゃいけないときもあるよね。
甫
2019/09/02
どうも淡い色の上着には、病院のイメージが強いようだから、病院から新しいユニフォームが支給されるタイミングで色を変えてみた。
俺は相変わらずの白衣だから面白くないが、皆は新鮮な色合いの上着を着て、自分たちの気持ちもリフレッシュしたらしい。やけに楽しそうだ。
患者の評判もすこぶるいい。紺というのは、日本人によく似合う色であり、好感を抱きやすい色でもあるのかもしれないな。
ある患者曰く、男女ともに療法士皆が「凛々しく見える」のだそうだ。
そこまで言われると、俺もちょっと着てみたくなる……。
九条
2019/09/02
とはいえ、お月見まで穂が開かないままでいてくれるかどうかは、ちょっと疑問です。
それにしても、両親から店を引き継いて独り立ちする前は、彼らが大切にしていた折々の小さな行事を、つまらない、古臭いものだと小馬鹿にしていた自分の横っ面を張り飛ばしてやりたい心持ちがします。
今、玄関に生けた季節の花を写メってみると、特に父が喜んでくれるのが、嬉しくも切なくて。
僕は親不孝な息子でした。遠く離れても、できる範囲の孝行をしたいと思います。
それに気づけたのは、先生のおかげですね。
愛する人と、また一つ季節を共に過ごすことができた……小さな行事を迎えるたびに、両親が味わっていたであろう喜びを、僕も感じることができていますから。
遥
2019/09/02
唸りながら布団の上で転がってたら、深谷さんが俺より先に起き出して、甘くて熱いチャイを作って持ってきてくれた。
不思議だねー! それ飲んだら、途端に全身の目が覚めた!
「やっぱり電池切れだったね。風邪じゃなくてよかった」って笑ってたけど、深谷さん、すげーな。俺より、俺のことわかってる。
理学療法士の仕事がら、つい人の行動を観察しちゃうから、何となくわかるんだって。
「でも、こんなにはっきりわかるのは遥君だけだな」って言われて、ちょっとホッとした。
俺以外の人のこともそんなにわかっちゃったら悔しいから、俺だけでよかった!
甫
2019/09/02
やはり秋といえば、ケーキより和菓子だろうと思ったんだ。
で、旨そうなあんころ餅を買った直後、通り掛かったケーキ屋のモンブランが目に入ってしまい……。
そういえば、秋といえば栗じゃないか。
うっかり気付いてしまっては素通りもできず、結局、モンブランも買った。
帰って渡したら、「おやおや、よくばりセットですね」と九条に笑われた……が、やはりどちらも食べたかったので、羽目を外して両方食べた。
九条があんころ餅には煎茶、モンブランには紅茶と飲み物を入れ替えてくれて、二人で他愛ない話をしながら、2時間ほどものんびり楽しんだ。
自宅でアフタヌーンティーの趣だったな。
しかし、今……口が塩気を切実に求めている。
知彦
2019/09/02
小学生の頃、帰り道に摘んでいって、母に叱られた記憶が……。
「お墓に植える花だから不吉でしょう」って叱られたけど、今はそんなことは言わないんだろうか。
僕は今でも、見るたびに綺麗で華やかな花だと思うんだけど。
だけど、うちのあたりはお年寄りが多いから、母と同じようなことを言いそうだな。
店の前に植えるのはやめておこう。
ふと遥君にも訊いてみたら、やっぱり僕と同じことをして、お母さんに叱られていた。
意外と似た者同士だね、僕ら。
九条
2019/09/02
しかし、花屋の宿命で、季節をほんの少し先取りしなくてはならないので、気を取り直して今日から秋らしい花を店に並べました。
菊、りんどう、コスモス、萩、そしてススキに紅葉。
店を眺めていると、エアコンの涼しさも手伝って、ほんの少し、秋の雰囲気が出てきたようです。
少々姿の悪いものを抜いて、我が家の玄関にも生けておきましょうね。
たとえ道路一本渡るだけとはいえ、残暑厳しい中を歩いて帰宅される先生に、いち早く秋を感じていただきたいです。