夏草の檻

-
- 本販売日:
- 2007/05/25
- 電子書籍販売日:
- 2010/05/28
- ISBN:
- 978-4-8296-5477-4
- 電子書籍のご購入について
書籍紹介
彼を愛撫している錯覚に、恍惚とする
少年は、幼馴染みで高校の同級生・夏己の美しさと強さに惹かれ、その存在に支配されていた。夏己もまた、子どものころ少年の右頬に消えない傷痕をつけてしまって以来、少年に囚われている。少年の存在から逃れようとする夏己と、夏己を求め続ける少年。そんな中、細工をされ欠陥のあるバイクでツーリングに出かけた二人は、事故に遭い…。切ない想いを描いた2作品を収録。
立ち読み
僕は黙って、密やかに泣く三島を眺めた。
喉の奥から、時々、堪えきれないような声が洩れる。こんなに哀しい泣き方をする人を、今まで見たことがない。
だから、僕は、走り寄っていた。
走り寄り、細かく震える頼りない背中を後ろから抱き締めた。
「………タ、タコ………?」
三島が身じろぎしたのがわかったが、僕は頭をふり腕に力を込めた。
「――なんで」
「泣かないで」
僕は言ったけれど、語尾はあやしく震え、唇をきゅっと噛み締める。
「泣いて………る、けど………お前――」
三島は僕のほうに向き直った。
頬を濡らした涙が耿るのを見ると、僕はいよいよたまらなくなって烈しく首を振った。
「タコ、」
「やだよ。そんな――三島が泣くなんて厭だ。誰かを思って、ひとりで泣くなんて、そんなの………」
「アホか」
三島は奇妙な笑顔を作ると、僕を引き寄せる。
パジャマの布地を通して、温かな心臓が脈打つのがわかった。三島の身体は思ったよりもずっと華奢で、肩も腕も、それは何か不吉さをさえ感じさせる細さだった。
「………泣いてんのお前じゃんか」
震えている僕を抱き締め、三島は半分ばかにするようないつもの調子で言った。
「三島が泣くからだよ」
「俺はべつに………俺はちょっと、」
「なんだよ」
急に下から引っ張られて、僕は思わず三島にしがみつく。ふわりと温かな感触が、唇を包んだ。
(同時収録「月の裏で会いましょう」より抜粋)
喉の奥から、時々、堪えきれないような声が洩れる。こんなに哀しい泣き方をする人を、今まで見たことがない。
だから、僕は、走り寄っていた。
走り寄り、細かく震える頼りない背中を後ろから抱き締めた。
「………タ、タコ………?」
三島が身じろぎしたのがわかったが、僕は頭をふり腕に力を込めた。
「――なんで」
「泣かないで」
僕は言ったけれど、語尾はあやしく震え、唇をきゅっと噛み締める。
「泣いて………る、けど………お前――」
三島は僕のほうに向き直った。
頬を濡らした涙が耿るのを見ると、僕はいよいよたまらなくなって烈しく首を振った。
「タコ、」
「やだよ。そんな――三島が泣くなんて厭だ。誰かを思って、ひとりで泣くなんて、そんなの………」
「アホか」
三島は奇妙な笑顔を作ると、僕を引き寄せる。
パジャマの布地を通して、温かな心臓が脈打つのがわかった。三島の身体は思ったよりもずっと華奢で、肩も腕も、それは何か不吉さをさえ感じさせる細さだった。
「………泣いてんのお前じゃんか」
震えている僕を抱き締め、三島は半分ばかにするようないつもの調子で言った。
「三島が泣くからだよ」
「俺はべつに………俺はちょっと、」
「なんだよ」
急に下から引っ張られて、僕は思わず三島にしがみつく。ふわりと温かな感触が、唇を包んだ。
(同時収録「月の裏で会いましょう」より抜粋)
おすすめの関連本・電子書籍
電子書籍の閲覧方法をお選びいただけます
ブラウザビューアで読む
ビューアアプリ「book-in-the-box」で読む

ブラウザ上ですぐに電子書籍をお読みいただけます。ビューアアプリのインストールは必要ありません。
- 【通信環境】オンライン
- 【アプリ】必要なし
※ページ遷移するごとに通信が発生します。ご利用の端末のご契約内容をご確認ください。 通信状況がよくない環境では、閲覧が困難な場合があります。予めご了承ください。

アプリに電子書籍をダウンロードすれば、いつでもどこでもお読みいただけます。
- 【通信環境】オフライン OK
- 【アプリ】必要
※ビューアアプリ「book-in-the-box」はMacOS非対応です。 MacOSをお使いの方は、アプリでの閲覧はできません。 ※閲覧については推奨環境をご確認ください。
「book-in-the-box」ダウンロードサイト- プラチナ文庫
- 書籍詳細