恋人代行、八千円
										書籍紹介
									
							今度、裸割烹着してくれない?
憧れの講師・柳の家は汚部屋だった! 便利屋でバイトする大学生の幹太は、片付けのため柳宅を訪れ愕然とした。知的で潔癖なイメージの柳に、仄かな想いを抱いていたのだ。けれど片付けに通ううち、人見知りでちょっとズレた言動をする柳の素顔を知る。先生って、なんか可愛いかも――そんな風に思い始めた頃、柳がゲイだと知ってしまい、狼狽えた所に恋人代行を申し込まれて!?
									立ち読み
								
							
									
						
						 「恋人代行、って……今月、これで何回目だったっけ」
							 え、と声を上げなかった自分を褒めてやりたい。
 柳の科白に、指先が震え、心臓が嫌な具合に鼓動を速める。自分が今、どんな顔をしているか、自信がない。
 ──……そうだ。
 忘れていた。自分は「恋人」ではない。「恋人代行」なのだ。
 彼と自分を繋ぐのは、恋情や愛情ではない。──金だ。
 月末なので、締日が近い。当然ながら、日数を数えて、柳に代金をもらわなければならなかった。
 柳の一言で、我に返った。どうして、付き合っている気になっていたのだろう。自分はいつから「代行」ということを忘れてしまっていたのだろう。
 たった今まで熱を孕んでいた体が、急速に冷えた。
 抱き合ったのは、彼と打ち解けた結果の行為では、なかったのだ。幹太は、柳に愛されたわけではない。
 少し考えればわかることだったはずなのに、と苦々しい気持ちを抱えながらシーツを掴み、身を起こす。顔を俯けたら、自然と息が零れた。
 顔を上げるときには、全てを隠して営業用の顔にしなければいけない。いつもならば問題なく作れるそれを、今は貼り付けるだけで辛かった。
「……正確な回数はちょっとわからないので、調べますね。今日、清算しますか?」
「え? ああ、いや、大丈夫」
 柳は指をそわそわと落ち着きなく動かす。
「あのさ、幹太。……なんか勢いづいてこうなっちゃったんだけど」
 勢い、という文言に幹太はまた小さく傷つく。自分も流されてしまったので、確かに勢い任せだったような気がしてきた。
「幹太がよかったら、その、またしたいんだけど」
 柳からの申し出に、体が竦む。気が付いたら息を止めてしまっていて、幹太は気付かれぬようゆっくりと震える息を吐いた。
 一度きりとはならないのが当然だろう。それが、恋愛関係の延長だったら歓迎だったが──。
「これからは、ちゃんと恋人代行とし──」
「わかりました。いいですよ」
 これ以上聞いていたくなくて、柳の言葉を遮るように、幹太は返事をした。柳が、ほっと息を吐いた気配がして、胸が締め付けられる。
 柳もまた、幹太が本気に捉えてしまったら困ると感じていたのかもしれない。惨めな気分だ。
「本当? いいの?」
「恋人代行ですし、これからはちゃんと、こういうのも入れていきましょう。……あの、でも後出しで申し訳ないですけど、最後までしたときはオプション料金付くのでそこはご了承くださいね」
 幹太の科白に、柳は一瞬目を丸くした。
										
								
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