おやじ貸します!? ~兄弟屋顛末記~
書籍紹介
ひっ、膝に座らせていただいても、いいでしょうか……?
便利屋『兄弟屋』の裏メニュー・別れさせ屋。尚は、双子の弟に代わってその依頼を受けることに。ところが、ターゲットは男!経験乏しく、隠居モードで過ごす尚には荷が重い。だが依頼者の新堂のために、依頼を達成しようと決意する。最初こそは強面で強引な新堂に怯えていたが、彼は自分に自信のない尚を認めてくれたのだから。手管を学び、男に抱かれる“練習”をして──!?
立ち読み
「凄く凝ってますね」
「……っつ」
「あ、すみません。もう少しソフトにしますね」
厚みがあって硬い筋肉をマッサージするのは力がいる。骨格からして違うんだろうなと思いながら、尚はいつしか汗だくになりながら熱中していた。だいぶ力を入れても痛がらなくなったので、肘を使ってツボを押す。
「あー、すげえ効くわ」
新堂が気持ちよさそうにしていることに満足しかけて、はっとした。
(全然色っぽい展開になってないじゃないか!)
これでは、かつてのお得意さんだった独居老人にマッサージしてやっているのと何ら違いはない。
(あとなんだっけ。あ、チラ見せだった)
「部屋、少し暑いですね」
これは嘘でもなかった。マッサージで体温が上がったことと、慣れないことをしている緊張から、顔が火照っていたのだ。精一杯何気ないふりを装って、いつもは一つだけ開けているシャツのボタンをもう一つ開けてみる。その手元に新堂の視線が集まっているのを意識しながら、もう一つ開ける。変に思われていないだろうかと思うと、頬が強張る。
次に何をしていいのかわからなくなった尚は、恐る恐るこう言ってみた。
「あの、ひっ」
「ひ?」
「膝、に」
「膝がどうした?」
「膝に座らせていただいても、いいでしょうか……?」
そこで、二人の間にたっぷりと沈黙が落ちた。永遠に続くかと思われる静寂を拷問のように感じ始めた時、新堂が「ぐはっ」と吹き出した。
「くくくっ……。はは、あはははは!」
渋面や憤怒の顔しか見たことのなかった男が、腹を抱えて笑っている。
(新堂さんも笑うんだ……)
「さっきから、一体なんなんだ。さっきの三人の入れ知恵か?」
「はい。いろいろプロの技を伝授してもらいました。スキンシップとかチラ見せとか。あ、依頼の内容は話してませんから」
「プロの技、ねえ。今日はなんか妙だと思ってたが、そういうことか。酒でも入ってんのかと思ったぜ」
そう言ってまた喉の奥で笑う。
(なんだ、笑ってればこの人もそんなに怖くないな。って言うか、笑顔はちょっと可愛い)
普段の新堂は貫禄も迫力もあって年齢不詳だけれど、笑うと急に年相応に見えて、自分よりずっと若い青年なんだということを実感できた。
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