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書籍紹介
初めての恋で、初めての恋人で、初めての失恋。
恋人同士の紺と綾野は、上京し共に夢を追うはずだった。けれど母親が倒れ、綾野は地元に残ることに。距離が離れてもふたりの仲は揺らがない、そう思っていた。なのにいつしか綾野は、自分の変わり映えしない日常に焦りを感じ始める。そして、久しぶりに帰省した紺に“変わらずに待っている安心感”を求められたことで、綾野が感じていたふたりの間の亀裂は決定的になり──。
立ち読み
同じ別れるにしても、七年も続いた紺との関係を、なんの話し合いもせず半端に終わらせてしまったことを後悔していた。最後の方はグズグズだったが、振り返ってみると楽しいことの方が多かった。だから、できるならきちんと話し合って納得して終わりたい。今までありがとうと笑って言いたかった。
──それを、いきなりホテルに引きずり込みやがって。
「おまえ、なんでさっきからそんな機嫌悪いの?」
黙々とサンドイッチを食べている綾野を、紺がむすっとのぞき込んでくる。
──わかんねえのかよ。
紺をにらみつけ、しかしこらえた。感情的になるな。
「おまえこそ、今までなにしてたんだよ」
「なにって?」
「連絡もしないで」
紺はふと眉根を寄せた。
「仕事」
たった一言で、紺は後ろ手をついて天井を見上げた。
「忙しかったのか」
「忙しくないときなんかねえよ。英ちゃん超売れっ子だし」
「けど連絡の一本くらいできるだろう」
「はい?」
紺がこちらを向いた。なんともいえない顔で綾野を見つめ、溜息をついた。
「それって、あたしと仕事どっちが大事なのってやつ?」
「はあ?」
「綾野がそういうこと言うって、なんか意外だな」
頭に血が上った。どれだけ忙しくても、二ヶ月も電話ができないなんてことはないだろう。別れるつもりならそれきりにすればいいものを、こうして連絡をしてくるから、どういうつもりなのかこっちも聞きたくなるのだ。
「おまえなあ──」
「もういいじゃん」
面倒くさそうにさえぎり、紺は綾野の肩に頭を置いた。
「やっと帰ってきたんだし、ちょっとゆっくりさして」
甘えるように首筋に顔をこすりつけ、シャツの上から乳首に触れてくる。
「おい、紺」
「すっげ疲れてんだよ。会ったばかりでごちゃごちゃ言うなって」
そう言うと、いきなり紺は綾野を押し倒した。綾野のシャツをまくり上げ、わずかに尖っている胸の先にむしゃぶりついてくる。
「やめ……っ」
抵抗を封じるように歯を立てられ、びくりと身体が揺れた。サンドイッチが手から落ちて、薄っぺらいハムやレタスがばらばらとシーツに散らばった。マヨネーズで汚れたシーツが視界に入り、瞬間、ぶん殴ってやりたい衝動が湧いた。なのに綾野の弱みを知り尽くしている手が、気持ちとは無関係な場所を強制的に熱くする。
「……最悪なやつだな」
なじる声が快感で弾んでしまった。
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