お医者さんにガーベラ
つけこんで、僕のすべてをあなたに捧げます
自他共に厳しい医師の甫は、溺愛する弟と恋人になった部下の仲を見せつけられ、やけ酒で泥酔した。路上で寝込んだところを生花店店主の九条に拾われた甫は、「あなたを慰め、甘やかす権利を僕にください」と笑顔で押し切られ、添い寝までされてしまう。かいがいしく世話をされ、真っ直ぐ好意を告げる九条の優しい手に癒される甫。それでも己の寂しさ、弱さを認めまいとするが…。
「わかりました。……何もかも、あなたのお望みのままに。でも、一応、確かめておきましょうか」
「確かめる?」
思わぬ言葉に顔を上げた甫は、急に近づいてきた九条の顔に驚いて目を見張った。しかし、彼の意図を悟ると、そっと目を伏せる。
それに誘われるように、九条は甫に口づけた。いつもムスッと引き結んだ甫の唇に、何度か触れるだけのキスを繰り返し、それから催促するように舌先でくすぐる。
「……んっ……」
躊躇いがちに開いた唇から舌を差し込んでも、甫は拒まなかった。自分の舌でぎこちなく応じようとする甫の不器用さが、九条を喜ばせる。
九条の片腕はずっと甫の背中を抱いていたが、ここにきてようやく、甫の手がいかにも怖々、九条の背に回された。
「……なるほど。本当に大丈夫みたいですね。よかった」
甫の舌を十分に味わってから、九条は唇をほんのわずか離し、安堵と喜びの滲んだ声で囁いた。
「俺は……嘘はつかん」
長いキスで涙目になりながらも、甫は羞恥をごまかそうと凄んでみせる。年上とは思えないその意外な可愛らしさに、九条は思わず甫をギュッと抱き締め、そして赤らんだままの耳元で囁いた。
「では本格的に、僕の権利を行使させていただきます。あなたが音を上げるまで、慰めて甘やかして差し上げますから……上へ行きましょうか」
九条の首筋に顔を埋めたままで頷いた甫の頬は、焼けるように熱かった……。
- プラチナ文庫
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