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死神にくちづけ

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書籍紹介

ぼくは神谷さんによく殺されますね。

事故に巻き込まれた神谷の病室を訪れたのは、神父の野中。
彼は、神谷の中に人の罪を暴き死に追いやる「死神の鎌」があると言う。
否定し野中を追い返すも、悪夢は始まった。自分の感情の乱れによって、人が死んでいくのだ。
有働というカリスマを崇める謎の組織にも狙われ、神谷は追い詰められていく。
ついには死を望み野中に縋るが、彼の深い情に癒やされて一時の安寧を得て──。

立ち読み

「なあ、ヨハネ」
 教会裏で枯れ葉を集めていると、神谷がヨハネを呼んだ。
「なんですか」
「嘘をつかないでくれよ。……おまえは、やっぱり、俺のことが恐いんだろう? この、死神の鎌が」
 神谷はもこもこのダウンジャケットを着ている。鋤にもたれてヨハネを見つめる。
「恐くはないです」
「嘘をつくなと言ったぞ」
「嘘じゃないです」
「じゃあ」
 ぐいと神谷が一歩近づく。反射的に、ヨハネは身を引いた。
「ほら」
「ほらってなんですか」
「恐いんじゃないか」
「鎌は恐くないです」
「鎌は? じゃ、恐いのは俺なのか?」
 彼は片手で自らの顔を覆う。
「なあ、どうしたらいい。なにをしたら、おまえは俺を許してくれる? 俺にはおまえしかいないんだ。女々しいと笑ってもいい。俺を捨てないでくれ」
 はは、と、神谷は自嘲した。
「これじゃ誠の父親を笑えないな」
 神谷は、明らかに落ち込んでいるようだった。
 違う。神谷のせいではない。
「私は神谷さんが恐いんじゃない。神谷さんによって揺さぶられてしまう、自分の心が恐いんです」
「自分の、心……?」
 ねえ、聞いてください。神谷さん。私にも感情があったんです。心があったんですよ。
「神谷さんは私にとって特別な人です。私が持つはずだった死神の鎌をあなたが持っているからかもしれない。もしかしたら、あなたが放った死神を受け入れたせいで、繋がっているのかもしれない。あなたといると心がざわめくんです」
 神谷は神妙な顔をしている。
「私はどうやら、あなたのことが好きなんです。あなたに恋をしてるらしい。あなたのことを思うと……欲情するんです」
「欲情」
 神谷が繰り返すのが、いたたまれない。ヨハネはもうやぶれかぶれだった。
「私は初めて、己を慰めました」
「己を、慰め」
 二十秒ほど、神谷は黙っていた。それからそれがマスターベーションのことであると悟ったらしく、「え、え、え、え、え」とひどくうろたえた。
「おまえ。それ。おまえが?」
 ヨハネはぐっとキャソックを握り込んだ。羞恥のあまり顔も耳も足まで熱くなっている気がする。
「だから……だから、言いたくなかったのに」
 そのとき、ヨハネは聞き慣れない音に気がついた。
 静かにしているように、神谷に指を立てて命じる。
 急いでヨハネは家に戻った。
 携帯が鳴っている。
 台所のテーブルの上で。
 ヨハネはそれをまじまじと見つめていた。いったいどこから。確認してみると、金獅子公の携帯からだった。
「はい」
『いったいいつまで待たせる』
 金獅子公は不機嫌だった。
「すみません。私に電話がかかってくるとは思っていなくて」
『まあ、いい。あと三十分ほどでそちらに着く』
「は?」
『視察に行くと伝えただろう』
「聞いていません」
『伝えたはずだ。札幌の支部を視察ついでにそちらを見に行くと。もう中標津の空港に着いている』
「困ります」
 ヨハネの全身から、冷たい汗が噴き出していた。ここに金獅子公が来たら、そうしたら、神谷のことがわかってしまう。まずは、神谷を隠さないと。それから、彼のいた証拠を消さないと。そう、千々岩牧場で預かってもらえないか、聞いてみよう。
「散らかっているのです。いらしていただくわけには」
『金獅子が支部を見に行く。それになんの差し障りがある。なにかまずいわけでもあるのか』
「いえ」
『おまえが中標津支部に不満があるのは無理からぬことだ。だが、沈黙の教会の存在理由である死神の鎌を紛失した責任は重い。しばらく耐えねばならない』
「そのことに関してはごもっともです」
『じゃあ、なんだ』
 すっと携帯が取り上げられた。神谷だった。
 神谷さん、と、声を出そうとしてヨハネは自分の口をふさぐ。
 彼はなにをしようというのだ。
「神谷です」
 なぜ。
『貴公、まさか神谷善人か。死神の鎌の持ち主である……──』
 金獅子公の声は、携帯を耳から外しているヨハネにまで伝わってきた。
「そうです。その神谷です」
「神谷さん、なにを……!」
 神谷はヨハネを制した。
「金獅子公。俺を、保護してください。殺せるなら殺してもいい」
「だめです。逃げてください」
 神谷は、言った。ヨハネと金獅子公の両方に。
「俺はもう逃げない。そう決めた。最初から、そうするべきだったんだ」
『とにかく、そちらに行く。待っていろ』
 電話は切れた。
「神谷さん」
 神谷は微笑んでいた。
「俺も、ヨハネといると楽しかったよ。でも、いつかは終わるとわかっていた。俺はこの鎌を持っている。天輪は異形だ。鎌は効かない。天輪だけじゃない。ほかにも、これを利用しようとするやつが現れないとも限らない。そうなったときに俺は多くの人を殺めることになる」
「でも」
 ヨハネ、と、神谷は呼んだ。
「おまえは宗主のことを、どうしてあんなことをしたのかわからないと言ったな。だったら、いまこそ、正しい行いをするべきだ」
「神谷さん」
 この人を自由にしたい。閉じ込めたくない。ましてや、死に至らしめるなど。いやだ。
「私は、いまこそ、知りました。宗主の愛を。その矛盾を。正しくあろうと思っているのに、私の心は言うことを聞かない。あなたを自由にしたい。できることなら、あなたとここにとどまり、ずっと暮らしていたいと叫ぶのです」
 神谷はヨハネに近づいた。つかの間、唇が重なった。
 これは……──なんだ? 今、神谷はなにをした?
「俺もだよ」
「え?」
「俺も、欲情してた。ヨハネに」

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