双狼の贄
おれたちの 番 は……極上ものだ
開発事業の進む限界集落・大上村。三十数年ぶりに実家に戻った生物学者の朱嶺は、代々守ってきた神域の山へと入り、白と黒、二頭の飢えたオオカミと出会う。死を覚悟した朱嶺に二頭は地主神、御犬様の眷属、銀雪と黒鐵であると名乗り、「我らの番となる約束を果たしてもらう」と言うや、双つの異形の楔で朱嶺を犯していく。朱嶺の脳裏に幼き頃彼らと過ごした記憶が甦り……。
そのとき、白いオオカミ──銀雪がべろりと朱嶺の右頬を舐めた。
「うわっ……」
ハッとして大きな白い顔を見上げると、銀雪が青い瞳を切なげに細めてみせる。
『我らはともにこの地の神……お前たちが御犬様と呼ぶ神に仕える眷属だ』
続けて黒鐵も顔を近づけてきて、朱嶺の頭や耳の裏の匂いを執拗に嗅いできた。
『そして、ミネ。お前はおれたちの番となる約束を叶えるため、戻ってきた』
「な、何を……言って……」
直接脳に響いてくる二頭の言葉に、朱嶺は愕然となった。あまりにも現実離れした状況と、にわかに受け入れ難い言葉を突きつけられ、さすがに混乱せずにいられない。
『もう……帰ってこないかと、諦めかけていた』
黒鐵の息がだんだんと荒くなっていく。
『……もう、待てぬ』
銀雪が、音を立てて舌舐めずりをした。
『飢えて、死にそうだ』
黒鐵が、朱嶺の右耳に鼻先を押しつけた。
ふたつの長い舌が、べろりべろりと顔中を舐める。
──やはり、死ぬのか。
不思議と心は穏やかで、悟りにも似た感情が胸に広がった。
と同時に、二頭の声が重なる。
『我らの番となる約束を果たしてもらう』
「つが、い……?」
鸚鵡返しに問いかけた直後、二頭のオオカミが突然、朱嶺のシャツを引き裂き始めた。
「ぅ、わっ……」
あまりの乱暴さに、身体が激しく揺さぶられる。
周囲に降り積もった枯れ葉が舞い上がり、ガサガサという耳障りな音が響いた。
身体のあちこちを地面に打ちつけながら、朱嶺はくぐもった悲鳴を漏らした。
二頭は唸り声をあげなら、一心不乱に朱嶺の身体を覆う布切れを噛み裂いていく。
気づけばシャツばかりでなく、ジーンズやスニーカー、下着は言うに及ばず、ソックスまでが喰い破られてしまっていた。
『ミネ』
どちらのオオカミに呼ばれたかは、分からない。
ほぼ全裸で地面に俯せた朱嶺の背を、長い舌がべろりと舐める。
『ミネ?』
横から金色の瞳が顔を覗き込んできたかと思うと、いきなり背中を押さえつけられた。
「うわぁ……っ!」
堪らず悲鳴をあげ背を仰け反らせると、項に噛みつかれる。素肌に尖った牙が食い込み、鋭い痛みが走った。
「ヒッ──」
とうとう喰い殺されるのかと、忘れていた恐怖が一瞬にして甦る。
「やめっ……」
激しい混乱に襲われ、四つ這いになって逃げをうつ。
しかし、行く手を遮るかのように黒鐵が立ち塞がった。
『ミネ、次にお前が山へ足を踏み入れたとき……番とすると約束しただろう』
黄金色の瞳がギラつく。
「え……」
絶望に唇を戦慄かせると、その口許を黒鐵が長い舌でゆっくりと舐めた。涎の滴る舌で、まるで味わうようにしつこく舐る。
「……ぁ、あ」
朱嶺は全身を硬直させ、ガタガタと震えるばかりで悲鳴すらあげられずにいた。
『ミネ。もうずっと……お前を待って、待ち侘びて──』
背後から覆い被さった銀雪が切なげに言いながら、太い前肢で朱嶺の腰を掻き抱いた。爪が脇腹を何度も引っ掻き、ヒリつくような痛みを覚える。
剥き出しになった臀部や下肢に硬い毛が触れるたび、チクチクとした感触が皮膚の表面を刺激した。
黒鐵は怯えて震える朱嶺を宥めているつもりなのか、眼鏡ごと顔や顎下、耳や首筋を舐め続けている。
やがて、銀雪の重みに耐え切れず、下肢ががくりと崩れ落ちそうになった。
すかさず背後から腰を強引に引き寄せられたかと思うと、ぬめりのある硬いモノが腿の内側に擦りつけられる。
「……え?」
やたらと熱い感触に、朱嶺はハッとなった。
『ミネッ……』
項に噛みついたまま、銀雪が上擦った声で朱嶺の名を繰り返す。下肢を揺さぶられるたび、内腿に濡れた異物が擦りつけられた。
──ま、さか……。
脳裏を過ったおぞましい想像に、朱嶺はブルッと背筋を震わせる。
何が起こっているのか、冷静に考える余裕など微塵も残っていない。
『……ミネ』
黒鐵に鼻先で顎を掬い上げられ、おずおずと唾液まみれの顔を向けた。
『怖がらなくても、いい』
漆黒の闇の中で輝く黄金色の瞳で見つめ、獣特有の噎せ返るような息を吐きかける。
『いい子だから、じっとして……』
唾液まみれのレンズが白く曇る中、黒鐵が長い舌を朱嶺の口腔へ潜り込ませてきた。
「……っあ」
咄嗟に口を閉じようとしたが、一気に咽頭まで舌を突き入れられ、激しい嘔吐感に喉を喘がせてしまう。
「ぅえっ……ぁ、゛うぅっ」
息苦しさに身悶える朱嶺に背後からのしかかった銀雪が、腰を揺すりながら問いかけてきた。
『……分かるか、ミネ』
噛みつかれた項がじんと痺れて、甘く疼くような感覚を覚えた。喉奥へ流し込まれた唾液を噎せながら嚥下するうち、苦痛と恐怖が徐々に消え失せていく。
「な……に」
だらしなく開いた口を黒鐵に舐められながら、朱嶺は掠れた声で答えた。
『我らがどれほど、このときを待ち侘びていたか……』
銀雪の声は昂りに震えていた。
切ないような、劣情にも似た感覚が、じわりじわりと朱嶺の思考を支配していく。
『けれどミネは戻ってきてくれた……』
黒鐵の双眸が潤んでいる。
突如として現れた二頭のオオカミの心情など、朱嶺には知る由もない。
前と後ろから無防備な身体を弄られ、全身をだらりと弛緩させてされるがままでいた。
脳に靄がかかったように意識がぼんやりとして、思考がまとまらない。
痛みも、恐怖も、感じなくなっていた。
朱嶺の身体を包み込むのは、言葉で形容し難い熱と、ドロリとして重い劣情だけだ。
『……さあ、いよいよだ。これでお前は、我らの番──』
『ついに約束が叶えられる』
ふたつの声が重なった、その瞬間──。
「ッアア……ッ!」
朱嶺は下腹から身体を引き裂かれるような衝撃に襲われた。
──う、そだ……っ。
尻の狭間に、人のモノとは明らかに異なった形状の生殖器を突き立てられている。
「お、んな……のコとだって、まだ……シたこと、な……いのにっ」
ショックのあまり、人には言えない本音が零れ落ちた。
- プラチナ文庫
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