甫
2019/09/02
桜も咲いて、いよいよ春本番だな。
今日は生け花の稽古終わりの九条と夜桜見物に出掛けた。
最近はどこも、やたらにライトアップが完備しているんだな。
外灯や月明かりが淡く照らす程度が俺は好きなんだが、まあ、徹底的にライトアップされた川沿いの桜も、綺麗なことに変わりはない。
だが、食事を終えて、九条とぶらぶら散歩がてら歩いて帰る道すがら、もう誰もいない公演で咲く桜の花が、今日いちばん美しかった。
帰り道、九条が何げなく「明日はエイプリルフールですね。どんな嘘をつきましょうかね」と言い出した。
そんなことは、考えてもいなかった。「罪のない嘘にしてくれ」と頼んだら、九条の奴、しばらく考えてから、「では、『先生は世界で二番目に可愛らしい』という嘘にしましょうか」と言い出して、何だかよくわからなくなった。
その嘘は、どう解釈すればいいんだ……?
知彦
2019/09/02
出勤して、リハビリ室のあれこれをセットアップしていたら、入って来た大野木先生が、ツカツカとこちらに。
また何かミスを……とギクッとしたけれど、「さっきから気になっていた。落ちないものだな」といきなり僕の頭に手を伸ばされ……「ほら」と見せられたのは、頭についていたらしき桜の花びらだった。
行き道に散っていた桜の花びらが、ついてきてしまったらしい。
「捨てるのは惜しいな」と僕の掌に載せてくださったけれど、さて、どうしたものか。
そのままウロウロしていたら、受付のナースが、ガラスのコップに水を入れて、そこに花びらを浮かべてくれた。
それをそのまま受付に置いて、来た人に春のお裾分けを。何だかいい感じだ。
遥
2019/09/02
いや、まずいとは思わないけど、凄く好きだと思ったことはないなあ。
深谷さんに「タケノコ好き? 凄く食べたい?」って訊いたら、「タケノコご飯は好きだよ」って。
ああ、確かにー! タケノコご飯をおむすびにした奴、俺も好き!
喋ってたら凄く食べたくなってきて、帰ってきたばっかだったのに、深谷さんとその足でスーパーに行っちゃった。
「タケノコご飯のもと」を買ってきて炊いて、待ってる間にほうれん草のおひたしと豚汁を作った。
何だか、定食みたいだったけど、すげー旨かった~!残ったのはおむすびにして、明日の朝飯!
旬の食べ物が嬉しくなるのは、大人になった証拠なのかな~。
そう言ったら深谷さんに、「大人はあんなに寝相が悪くないよ」って言われた。あうー。
九条
2019/09/02
でも、春には嵐がつきものです。
万が一のことを考え、店のバックヤードで、土曜日にちょうど満開になるよう、桜の枝を管理することにしました。
もし杞憂であれば、お店かリビングを彩ってもらうことにしましょうか。
春は花粉症の季節……と考えると気が滅入るでしょうが、そんな大野木先生にも、少しでも春を楽しんでいただきたいです。
その一環は、やはり食……ですよね。
花の仕入れ先の方が山をお持ちで、そこで掘ったタケノコを分けてくださったので、今夜は先方で教わったタケノコの天ぷらと、タケノコご飯を作ります。
「こんな立派なタケノコをいただきました!」と抱えた状態で写メを送ったら、先生からの返事は、「お前は顔が小さいな」でした。予想外の反応です……!
甫
2019/09/02
庭の桜が、それまで保つといいんだが。既に、軽く咲き始めている。
この家をリフォームして植えたときは、頼りないほど細い幹だったが、ずいぶんどっしりしてきた。
桜というのは、育ちが早い植物なんだな。今年は、初めて一人前に咲きそうだ。
植えたのは、「自宅で花見ができたら素敵だ」という安易な動機からだったんだが、春から夏にかけて大量の毛虫がつくので、九条が高い脚立を持ち出し、夜叉のような顔で駆虫している。
木がまだ若く弱いので、自分で自分の身を守れるようになるまで、人間が手を貸して、守ってやらなくてはならないらしい。
人の子供と同じだなと思うと、今年の花を見て、感慨もひとしおだ。
知彦
2019/09/02
遠慮しても今更……なので、正直に。
先生のお宅で、手巻き寿司をご馳走になりたいです!
なんというか、四人でテーブルを囲んで、わいわいとお寿司を巻くあの雰囲気が、僕はとても好きで。
なので、もし九条さんと先生のご迷惑でなければ、是非、二人でご自宅にお邪魔させてください。
遥君も、時間があるとき、少しずつパン細工の練習をしていますよ。
いつか、九条さんとコラボしていい作品を作りたいそうです。そういうのも、何だか異業種どうしの切磋琢磨でいいですね!
甫
2019/09/02
まあ、プライベートに口出しはせんが、あまり羽目を外すなよ。
とりあえず、その王様の日とやら以外で、俺たちの食事ができる日があれば知らせてくれ。
どこかで一緒に飯でも食おう。外でも無論いいが、九条がうちでもいいと言っているから、どちらでも好きなほう、つまり食べたいものを教えてくれればいい。
今日は帰宅したら、九条がまたウエディングブーケの試作をしていた。
今回は、和装の花嫁が持つブーケという依頼らしい。
最近は、白無垢や色打ち掛けでブーケを持つ花嫁もいるのか。色々と複雑化したものだな。
せっかくなので和の花を使いたいそうで、生け花の成果が生かせそうだと張り切っている。
とはいえ……毎度俺がブーケを持ってみる係というのは……どうにも気恥ずかしい。
遥
2019/09/02
まる一日、深谷さんが何を提案しても、「うん、いいよ」って言う一日が過ごしたいんだって。
何だそりゃ。全然いいけど……あっ、何かご無体なことを言おうとか……いや、深谷さんだからそれはないか。ないな。
あってもいいけど! ちょっとくらいはあってもいいんだよ、俺、深谷さんの彼氏なんだし! うん、あってもいい! じゃあ、その日は深谷さんが王様ってことで。
甫
2019/09/02
通路を渡ればすぐ職場という環境でなければ、遅刻していたところだ。
それだけは免れたが、組織の長が誰よりも遅く出勤しては、示しがつかんな……。
花粉症の薬の副作用が原因なのは確かだが、飲まなければとても仕事ができない状態になってしまうので、折り合いが難しい。
「花屋のパートナーが花粉症では格好が付かないな」と九条に冗談を言ったら、真顔で「僕は先生のためなら、転職も厭いませんよ」と言い出して閉口した。
俺は、花を触っているときの九条が好きだと言ったら、これまた真顔で「あなたに触れているときの僕はどうです?」と訊き返されて、さらに閉口した。
九条には、あらゆる意味で、かなわないな……。
知彦
2019/09/02
小学校を卒業して、春から中学生っていう患者の女の子が、「お土産。家族みんなで京都行ったんだ!」って言って差し出してくれた、可愛い鞠みたいな飴だ。
うちの病院、患者さんからの物品を受け取っちゃいけないことになっているので、一応、近くにいらっしゃった大野木先生に伺ってみたら、「子供が無邪気にくれるものを拒否して、いたずらに傷つけることはあるまい。ありがたくいただけ」と言ってくださった。
先生は、規則をきっちり守る一方で、そういう柔軟さも持ちあわせておられるのが、凄くかっこいい。
自分の判断に自信と責任が持てないと、そういうことは言えないんだもんな。
小さなことだけど、先生への尊敬の念が増した。
そして、飴を口に入れて五秒後、遥君が「いいもの食べてる!」と別の部屋からやってきた。ど……どうしてわかったんだろう……。
九条
2019/09/02
お昼に食べていたお蕎麦も美味しそうでした!
何となく僕と大野木先生も少し出かけたい気分になって、映画を見に行くことに。
ついでに、春物を見ようかということになりました。
何となく春になると、明るい色合いの服を着たくなりますね。
先生は下着を新調しようとお思いだそうで、「お前に都合のいいものを」と仰るので心臓が止まりそうになりました。
しかし、よくよく伺うと、洗濯の話。畳むのは二人でやりますが、家にいる僕が洗濯機を回して干すまでをやることが多いので、お気遣いいただいたようです。
「僕が脱がせやすいものをという意味かと思いました」と申し上げたら、真っ赤になってしまわれました。
可愛いは正義と巷では言うようですが、可愛すぎるのは罪ですねえ……。
遥
2019/09/02
しかも、今回はサイクリングも楽しめちゃうらしい。
ワゴン車を借りて、二人分の自転車も積んで出掛けるんだって。楽しみだな~!
キャンプ場の近くに温泉宿もいくつかあるから、湯巡りもできるんだってさ。
滅茶苦茶リラックスできそうじゃね?
季節がいいから兄ちゃんたちも誘ったんだけど、やんわり断られちゃった。
やっぱ、アウトドアより家でのんびりがいいんだってさ。
楽しいのに~。でも、無理強いは駄目だよね。俺もずいぶんオトナになったのだ!
お互い、それぞれの楽しみ方で、いい連休を過ごそうね。
甫
2019/09/02
何か、スパイスの中に有効成分があったのかもしれない。
ようやく抗ヒスタミン剤と折り合いをつけられたようで、今週は比較的楽に過ごせている。
だから、今日の外食は九条の好きなものを食べようと言ったら、「贅沢ですが、お寿司が食べたいですね」と、珍しく素直に希望を言ってくれた。
確かに、家ではちらし寿司や手巻きはできても、にぎり寿司は難しいだろうしな。
月に一度くらいは贅沢をしてもいいだろうと、前に行ったことのある小さな寿司屋へ行った。
どういう順番で食べればいいのか未だによくわからないので、適当に見繕ってくださいと頼んで出してもらって、十分に満足した。
正直言うと、ああいうカウンターの寿司屋に行くと、未だに少し緊張する。九条はどうなんだろうな。ずいぶんリラックスして見えたが。
知彦
2019/09/02
仕事から帰って、そそくさと夕飯を済ませて、遥君と荷造り開始!
明日からの連休は、今年初のキャンプに行く。
といっても、さすがにテントはまだ早いからキャビンを借りた。普通の旅行よりちょっとワイルドなくらいのキャンプだ。
肩慣らしにはちょうどいいと思う。
あんまり張り切りすぎずに、簡単で美味しいご飯を作って、山の空気をいっぱい吸って、のんびり過ごす。楽しい連休になるといいな!
知彦
2019/09/02
帰ってきて、夕飯を作る前に一枚。
夕飯の後、雑誌を読みながら、三枚。
何となく、遥君の焼いてくれたクッキーを、毎日美味しくいただいている。
店のものと違って、純粋にバターと粉の香りがする硬めのクッキーは、とても美味しい。
失敗作だと遥君は言うけど、これはこれで味わいがあるけどなあ。
三寒四温というけれど、ここのところ気温のアップダウンが激しいから、遥君はパン生地の扱いが大変みたいだ。
そればっかりは、僕は手伝えないから見守るだけだけど、あの寝起きの悪い遥君が、「ちょっとパン生地冷蔵庫に入れたほうがよさそう」ってフラフラ台所へ向かう姿に、プロだなって感じる。
明日も、美味しいコッペパンが焼けますように。
九条
2019/09/02
お返しを僕が準備することに、大野木先生は「申し訳ない」と言ってくださいましたが……何と言うか、これは僕の独占欲のあらわれにすぎませんから、好きにさせてくださいと申し上げました。
先生は「お前のことは皆知っている」と何だか困ったような顔をなさっていましたが、そういう問題ではないのです。
ホワイトデーというのは、僕にとっては、「この人は僕のものです」と、年に一度、堂々と宣言できる日なんですよ。
なので、今後もお返しは僕に一任していただけると嬉しいです。
勿論、先生に恥を掻かせたりしないよう、素敵なお返しを見つけますからね。
今年は、京都の老舗和菓子屋が季節ごとに売り出す、可愛い飴にしました。
遥
2019/09/02
ネットで見てからいつかやってみたかった、熊がアーモンド抱っこしてるクッキー。
けっこう腕を曲げるのが難しいんだ。
で、来てくれた人たちにプレゼントしたんだけど、義理チョコ丸出しの奴をくれた女子高生たちには、「手作りとか引くわ~」って笑われて、ちょいムカ。
そのくせ、店の前でボリボリ食べていったし! 旨かったんじゃん~!
俺と深谷さんは、バレンタインにチョコを交換したわけだから、ホワイトデーには特にやることがないんだけど、クッキーの形の悪い奴とか、型を抜き損ねた奴とかをおやつに二人で食べることにした。
そしたら深谷さんが妙にニコニコしてるから、「何?」って訊ねたら、「今日は色んな人が遥君にお返しのクッキーを貰っただろうけど、失敗作を食べられるのは僕だけだね」だってさ~!
もうー、なんか照れちゃって困るだろ~! 深谷さん、謎の殺し文句。
甫
2019/09/02
抗ヒスタミン薬の副作用の眠気はあるが、花粉症の症状がコントロールされてきたことは、喜ばしい。
少しはカレーの効果もあるだろうか。
調子がよくなったので、今日は九条の庭仕事を手伝った。
春から初夏に咲く花の苗を植えたり、野菜用の苗床を作ったり。
土を弄ると、何となく気持ちが安らぐ。
九条いわく、土には肥料を入れればいいというものではなく、足りない成分を補いながら、緩やかに控えめに、何年もかけて育てていくのだそうだ。
毎年、地道に土を育てていけば、いつかこの屋根の上のささやかな庭に、零れるほど花が咲き乱れる時がくるのだろうか。
そのときも、二人で共に眺めて喜びたいものだ。
そう言ったら、いつもはロマンチックなことばかり言う九条が、真顔で「その歳になるまで庭仕事ができるように、今から足腰を鍛えておかなくてはいけませんね」と応じたのが、何やら可笑しかった……。
足腰を鍛える、の意味に気付いてからは、可笑しいどころではなかったが。
遥
2019/09/02
K医大の耳鼻科でずっと薬を出してもらってるけど、今年新しくもらった薬は、飲むと前の奴よりボンヤリしちゃうんだよね。
舌も鈍くなる気がするから、パンを焼き終わるまでは飲めない。
次に行くときは、去年の薬にかえてもらおうっと。
俺が鼻をぐずぐずさせてたり、目をショボつかせてたりすると、深谷さんが困った顔で、「可哀想になあ。早く花粉症の特効薬が出るといいね」って頭をなでなでしてくれる。
子供扱いー!ってふくれるけど、実はちょっとだけくすぐったくて嬉しい。
大人になると、子供扱いしてくれる人って、当たり前だけどいなくなるんだよなあ。
たまーに、それが寂しくなること、あるよね。
九条
2019/09/02
やはり、防ぎきれないものなのでしょうか。お気の毒に。
繊細な味がわからないと仰るので、ガツンとインドカレーを食べることにしました。
インド料理のスパイスで、少しでも症状が軽くなるといいのですが。
そう申し上げたら、大野木先生は「そうだな」と仰り、いつもは頼まない辛口のラムカレーをオーダーなさって……そして案の定、からすぎて涙目になっておいででした。
なんて可哀想な……と思いつつも、目を潤ませながら水を飲み、またカレーに挑む先生は、とても可愛らしかったです。
でも、早く症状が軽くなりますように! やはり、健康第一です。
知彦
2019/09/02
豆の水煮の缶詰がもうすぐ賞味期限だったから、ちょうどよかったかも。
たまにしか作れないんだけど、一人前百円のこのサービスメニュー、あると喜んでくれるお客さんがけっこういるらしくて、僕も嬉しい。
一応、使い捨て容器を用意してあるけど、近所だとお鍋を持って来てくれるお客さんも多いみたいで、いいよね、そういうの。
僕が帰る頃には、大鍋が空っぽになってますように。ああでも、遥君と僕の晩ごはん分くらいは残っててくれてもいいなあ……。今日は晩飯、何にしようかな~。
甫
2019/09/02
俺も、色々なことを一度に処理するのは苦手だ。
だから、そんな俺が医局の長というのは、本当はまったく向いていないんだ。
皆にそれぞれの問題や悩みを打ち明けられたり相談されたりすると、たちまち頭がオーバーヒートしそうになる。
だが、そんな俺を知っている古株の医局員たちがサポートしてくれるし、迷ったことがあっても、家に帰れば九条が相談に乗ってくれる。
深谷も少しずつではあるが、頼れる存在になりつつある。
つくづく、俺は人に恵まれているな。
俺もいつか、誰かの力になれるように精進しなくては。
遥
2019/09/02
でも俺、基本のコッペパンもまだ極めてないのに……って迷ってたら、今朝、深谷さんが、「遥君のこだわりも大事だけど、お客さんの要望も大事にしなきゃね」って言って出勤してった。
確かにそうだな~。お客さんたちが、美味しかった、また食べたいって言ってくれるの、ありがたいもんね。
うん、コッペパンがメインってことは絶対忘れず、でも揚げパンも蒸しパンも、サブメニューとして無理のない程度に作っていこう。
ただし、蒸しパンは時々にする! あれ、調理過程が他のパンと違うから、ちょっと混乱しちゃうんだよ~。俺、あんま器用じゃないからさ。
色んなことを、ちょっとずつ前に進めて、横にも広げていこう。俺のペースで!
知彦
2019/09/02
けっこう広い場所でやってることにもビックリしたし、人がたくさんいることにもビックリした……! 売りたい人と買いたい人が、こんなにいるのか!
一家で売りに来てる人たちもいて、凄く賑やかだ。
それぞれ小さなスペースの中に色々工夫して品物を陳列してあって、ただ歩くだけでも楽しい。
偶然、店じまいするパン屋さんが来ていて、遥君は細々した焼き型やらバスケットやらを安く譲ってもらっていた。
僕は特にこれといって狙っていたものはなかったんだけど、買ったもののサイズが大きすぎてほとんど着ていないというジャージが気に入ったので、ビックリするくらい安く売ってもらった。値切るまでもなかった。
世の中には、いい人がいっぱいいるなあ……。
露店もいっぱい出てて、そこで食べた手作りソーセージのホットドッグが美味しかった。
遥君と、ホットドッグもいいねと相談中。春の新入生応援メニューになるかな。
九条
2019/09/02
きっと、女子高生の皆さんも喜ばれたことでしょうね。
今日のお弁当は、昨日のちらし寿司の残りを詰めたのでとてもラクで、いつもより少し長く布団の中にいられました。
さすがに寒くて耐えがたい、という季節は過ぎてしまったようですが、それでも布団の暖かさと心地良さには抗いがたいですね。
隣に大野木先生がいては、なおさらです。
一分でも長く寝顔を眺めていられる幸せ、というのを満喫しました。
先生は何故か、軽くうなされておいでだったような気がしないでもありませんが……。
甫
2019/09/02
深谷が今朝、「遥君のひな祭りスペシャルです」と言って、器用に三層に色分けした蒸しパンを持ってきた。
苺の粉末と抹茶で染めるとは、遥もなかなか考えたものだ。
持ち帰って九条と半分ずつ食べたが、ほんのり甘くてもちもちしていて、旨かった。
パサつかない分、正直、俺はコッペパンより蒸しパンが好きかもしれん……。
毎年の如く「ひな祭りには関係ないですが」と前置きして、九条が今夜もちらし寿司と蛤の吸い物を作って待っていてくれた。
確かにひな祭りの対象者はいないが、献立をなぞるくらいは構うまい。
肌寒いからと蒸し寿司にしてくれたのが、とても美味しかった。
しかし今年は九条の奴、白酒まで用意していて、甘い甘いと言いながら飲んでいたら、口当たりがいいので、いささか酔った。
酔うと口が緩むらしいから、迂闊なことを口走らないよう、気をつけなくては……!
遥
2019/09/02
いくらなんでも、ひし餅を入れるってわけにはいかないしなあ……。
帰ってきた深谷さんに相談したら、深谷さんも悩み始めちゃった。
前日に言われてもなああー!
家にある材料でできるもの……って二人で死ぬ程考えて、菱餅っぽい三色蒸しパンを作ることに。
染め粉は、何かに使おうと思ってたフリーズドライの苺をパウダーにした奴と、抹茶。風味がつくから、きっと美味しい!
今、試作中なんだけど……美味しくできたらいいなあ。
それにしても、リクエストはもっと早く言ってくれなくちゃー!
九条
2019/09/02
昨夜は2月最後の夜を、食事の後、ちょっと素敵なバーに立ち寄って過ごしました。
先生のスーツ姿は毎日拝見していますが、やはりバーで見ると、ガラリと趣が違うものですね。
非日常感が増して、とても素敵でした。
僕はあまりスーツを着ないので、どうしても服に着られてしまって、ピシッと決まりません。
大野木先生も、「誤解しないでほしいんだが」と前置きしてから、「お前はエプロン姿がいちばんいいな」と仰いました。
誤解するも何も、仕事着がいちばんいいと言われるのは、とても誇らしいことですよ。
それに少しお酒でいつもより正直になられた先生に、「花屋でのエプロン姿もいいが、台所でのエプロン姿も同様にいい。俺にとっては、安らぎそのものの姿だ」というお言葉をいただきましたしね。