甫
2017/11/18
特に予定のない午後は、たいてい二人ともリビングで過ごす。
一緒に何かするというよりは、同じ空間で互いの存在を感じながら、思い思いに過ごすことが多い。
俺は医学雑誌を読んでいたが、ふと九条がやけに静かだなと思ったら、黙々と編み物をしていた。
結婚式の花にレース編みの飾りをつけたいが、既製品で希望に沿うものがないので、自分で編むことにしたそうだ。
細い糸をせっせと編み、見事な幾何学模様を作り出しているのを見ると、九条の手先の器用さに舌を巻くばかりだ。
やってみますかと言われたが、謹んで辞退した。
何か手伝えることはあるかと訊ねたら、何か面白そうな本を読んでくださいとリクエストされたので、俺の好きな泉鏡花の短編を朗読した。
なるほど、手元に注目しているから、テレビすら見られないんだな。
拙い朗読だが、喜んでもらえてよかった。俺も楽しかった。